「ふぅ……」 替えのパジャマのボタンをかけ終えると、一息ついてベッドの上に腰を下ろした。 「これでやっと落ち着ける……みんなには迷惑かけちゃって、ホント申し訳なかったな」 もう一度息をついて目を閉じると、さっきまでの事を思い返す。 リングに炎を灯した途端、まるで生き物のように動き出したボンゴレ匣。 匣の中から出てきた怪物のような匣兵器。そして―― オレンジ色の炎を纏った馬に乗って現れた、この時代のディーノ。 「まさかディーノさんが日本に来てくれるなんて……イタリアの方も大変だって聞いてたから、会えないって思ってた。10年後も体質直ってなかったのはちょっと意外だったけど……」 馬から落っこちてたんこぶを作ってしまったディーノの姿を思い出し、思わず苦笑いを浮かべてしまう。 あの後。 落馬したディーノを見て、10年後も部下が側にいないと力が出せない体質のままだと知り驚き固まっている間に、リボーンから『壊れた部屋の修復はジャンニーニに任せるとして、ディーノとは話があるからお前らは明日に備えてさっさと寝ろ』と言い渡され、半ば強引に各自の部屋に戻らされてしまったのだ。 自分も例外ではなく、この時代のディーノと出会えた喜びを噛み締める間もないままリボーンに部屋から蹴り出され、後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去った。 その後は匣兵器の暴走で崩壊してしまった自室から他の空き部屋に私物を移動させ、雨燕の起こした大波を匣兵器もろとも食らいずぶ濡れになってしまった体をシャワー室で温め直し、寝る準備を済ませ、今ようやく腰を落ち着けたところだ。 「ちぇ……オレもディーノさんと話したかったのに、リボーンの奴……」 唇を尖らせたままゴロンとベッドに横になると、ディーノを想いながらそっと枕を抱き寄せた。 「ディーノさんがさっき言ってた事、どういう意味なんだろう……」 あれはおまえの匣兵器本来の姿じゃない―― 「みんなと同じようにやってみたんだけど、何か違ってたのかな……大空の匣はデリケートだって言ってたから、みんなと同じじゃダメなのかなぁ……」 うーん、と唸りながらゴロゴロと何度もベッドの上で体の向きを変える。 「あ、ディーノさんもオレと同じ大空属性だし、もしかしたら明日からの修行でいろいろ教えてくれるのかも!」 仰向けになったところでピタッと体の動きを止め、枕をギュッと抱き締める。 ディーノが家庭教師。 そう考えるだけで自然と頬が緩む。 「ヴァリアーとの戦いの時は、雲雀さんがちょっと羨ましかったんだよね……もちろん、オレの修行に付き合ってくれたバジル君とリボーンには感謝してもしきれないんだけど、でも……」 あの時は久し振りにディーノに会えたのにそれも束の間で、すぐにヴァリアー襲撃に備え修行が始まり、なかなか顔を合わせる事が出来ない日々が続いていた。 それ故に、修行とはいえディーノと一緒に居られる雲雀を羨ましく思っていた。 「ディーノさんと属性が同じなの、嬉しいな。オレの匣兵器は何なのかよく分かんなかったけど、ディーノさんは馬かぁ……『跳ね馬』のディーノさんにすごくピッタリだ。それに……カッコよかった」 馬に乗って現れたその姿は幼い頃母に読んでもらった童話に出てくる王子様のようで、思い出すだけで頬が赤くなる。 「ディーノさんが来てくれてホント心強いや。匣の事は明日にして、今日はもう寝よ。寝坊して集合時間に遅れたらまたみんなに迷惑かけちゃうし……」 ふと気が付き時計を見ると、かなりの時間になっていた。 慌てて枕をベッドの上に戻すと部屋の明かりを消し、横になって毛布を肩まで引き上げ目を閉じる。 (おやすみなさい、ディーノさん……) 心の中でそう呟くと、意識が眠りの淵に沈むまで愛しい人を想った。 頭に浮かんできたのは、部屋から蹴り出される直前に見た、申し訳なさそうに笑うこの時代のディーノの顔。 でもそれはすぐに掻き消え、代わりに過去のディーノの笑顔が頭を過ぎる。 自分が一番大好きな、陽だまりのような笑顔。 その笑顔はいつも自分を幸せな、ホッとした気分にさせてくれるのに、今は何故か締め付けられるような小さな痛みを胸に残した。 「あ、あれ?」 ハッとなって閉じていた目を開き上半身を跳ね起こすと、まだ引っ掛かりが残る胸を押さえる。 「何だろ、この感じ……ディーノさんに会えて嬉しいはずなのに、ずっと会ってなかった時みたいに胸が苦しい……それに、何で急に過去のディーノさんの顔が……」 ついさっきまではこの時代のディーノの事ばかり考えていたのに、今は過去のディーノの事で頭がいっぱいになっていた。 二人きりで過ごしている時の、うっとりするような優しい顔。 イタリアに帰る間際に見せる切なげな顔。 部下から電話だと言い席を外した時にこっそり覗き見た、マフィアのボスとしての顔。 うっかりドジって、頬を掻きながら照れたように笑う顔。 今までずっと側で見てきたディーノのいろんな顔が頭の中に浮かんでは消える。 その度に、胸がギュッと切なくなった。 大好きなディーノの事を想っているのに、何故こんなにも胸が痛むのだろう。 「そういえば……未来に飛ばされたオレ達って、過去では行方不明扱いになってるんだよね……」 10年後の世界に飛ばされてからというものいろんな事が立て続けに起こり、危険な状況にあるこの時代の家族や仲間の事、自分と同じく過去からこの時代に来てしまったみんなを守る事ばかりに気がいっていた。 全てが終わった訳ではないが一区切りついた今、過去のみんなはどうしているだろうかと思う。 「こっちのみんなは無事だから、必ずみんな一緒に過去に戻るからって伝えられたらなぁ……」 家族が突然消えて不安な毎日を送っているであろう母の事を思いながら深い溜息をついた。 「イタリアに戻ったディーノさんにも、オレ達が行方不明になってる事伝わってるよね……」 リング争奪戦の後イタリアに戻ったディーノは今どうしているだろう。 未来に飛ばされたのは一ヶ月程前の事なのに、もう何年もディーノに会っていないような、そんな感覚に陥ってしまう。 ふと、最後にディーノに会った時の事が思い出された。 リング争奪戦の祝勝会が終わり、久し振りに二人きりでゆっくり過ごしたいとディーノがホテルを用意してくれて、そこで一晩中愛し合った。 会えなかった日の分まで求めるように、何度も。 一夜明け、愛しい人の腕の中で眠りに就いている間にリボーンから連絡が入り、何も告げずにイタリアに発ったバジルとランチアを追いかけ見送るためにすぐホテルを出なくてはならず、慌しいままディーノとはしばしのお別れとなってしまった。 その後10年バズーカに当たって消えたリボーンを探している間に自分も未来に飛ばされてしまい、ディーノには何も伝えられず仕舞いで今に至る。 「あの時は次の日になってもリボーンが帰って来なくて急に不安になって、何も考えずに家を飛び出しちゃったんだよね……ディーノさんに一言でも連絡入れてたらなぁ」 そう思い至れば、ディーノを通じて過去のみんなの心配を多少は軽減出来たかもしれないし、携帯を持ち忘れた事にも気付いたのに、と溜息をつく。 ディーノからプレゼントされた、お揃いの携帯電話。 それがあれば連絡を取る事が出来なくても、携帯に保存してあるディーノの写真を見る事も、留守電に残された声を聞く事も出来たのに―― 「……って、オレさっきディーノさんに会ってるじゃん! 声も聞いてるし!!」 10年後のディーノと再会したばかりなのに、ディーノとはずっと会っていないような事を思ってしまった自分に自分でツッコミを入れるが、やはり何かが心のどこかで引っ掛かっていた。 その妙な引っ掛かりを振り払うように、頭をブンブンと左右に振る。 「ごちゃごちゃ考えてても、ミルフィオーレとの戦いで白蘭を倒さなきゃ過去には帰れないんだ……そのために明日からまた修行なんだし、ホントもう寝なきゃ!」 どうにも出来ない事でいつまでも悩むより、今自分に出来る事をしなくては。 そう自分に言い聞かせ、無理矢理にでも眠ろうと横になり頭から毛布を被る。 「…………」 キツく目を閉じるが、胸の中の引っ掛かりはどうにも消えず、眠れなかった。 「10年後のディーノさんに会えて嬉しいのは本当なのに、何でこんな……淋しい気持ちになるのかな」 顔はますますカッコよくなって髪型も変わっていたけれど、声も体質も昔のままなのに、淋しさが埋まらない。 何かが欠けているような、空虚な気持ち。 さっきから感じているこの気持ちは何だろう。 コン、コン。 心の引っ掛かりの原因を突き止めようと必死に頭を振り絞っていると、ドアをノックする音が聞こえてきてそちらに意識が向けられる。 「ツナ、起きてるか?」 「ディーノさん!?」 今夜はもう顔を見る事も出来ないと思っていた愛しい人の声がドア越しに聞こえ、慌てて飛び起きると部屋の明かりをつけ、小走りでドアへと向かった。 「いよぉ、ツナ。さっきは挨拶もそこそこですまなかったな」 「い、いえ! それよりディーノさん、リボーンとの話は終わったんですか?」 ドアを開けるとずっと会いたかったディーノがそこに居て、胸が熱くなる。 「あぁ。本当は明日に備えてオレも早いトコ寝ないといけねーんだが、どうしてもツナの顔が見たくなってな。もう寝てるかなって思ったけど、我慢出来なくて来ちまった」 ニカッと悪戯っ子のように笑うその顔が昔とちっとも変わらなくてどこかホッとするが、それも一瞬で、すぐにさっきから感じている引っ掛かりが首を擡げてきた。 「あ、スマン。もしかして寝てたとこ起こしちまったか?」 気持ちが表情に出てしまっていたのだろうか。 自分のパッとしない顔を見てディーノが申し訳なさそうに謝罪してくるので、慌てて首を横に振りそれを否定した。 「ね、寝てないです! オレ、さっきの事でずぶ濡れになっちゃったからシャワー浴びてて、ちょっと前に部屋に戻ってきたばかりで……」 「そっか、もう少し早くリボーンとの話が終わってれば、一緒にシャワー浴びれたのにな」 「えっ……」 目を覗き込みながら言われ、思わず頬が赤らんでしまう。 「ハハハ、冗談だって。そんな顔すんなよ。今がそういう状況じゃない事くらい、よく分かってる」 「あ、はい……そう、ですよね……」 まだどこか表情が晴れないのを困り笑いと受け取られたのか、ディーノは冗談だと言いながらスッと顔を離した。 そういう状況じゃないのは自分でもよく分かっているはずなのに、つい期待してしまった事が恥ずかしくてますます頬が赤らむ。 「分かってるんだが……でも……」 「わわっ!?」 何となく気まずくて視線を合わせていられず、赤くなった顔を床に向け頬を掻いていると、不意に抱き寄せられた。 「これくらいならいいよな……ツナがすぐ近くにいるのに、我慢なんて出来ねぇよ。この時代に10年前のツナが現れたって報告聞いてから、ずっと会いたいって思ってたんだ……やっと会えた」 「ディーノさん……オレも……キャバッローネは健在だって聞いてましたけど、それでも会いたいなって……」 抱き締められると今までの想いが一気に込み上げてきて、堪らずその胸にギュッと顔を埋めた。 (あ……ディーノさんの匂い、10年経っても変わってない……何だかホッとするような、お日様みたいな匂い) ディーノの腕の中で暖かく優しい匂いに包まれ、うっとりと目を閉じる。 (こうしてると、ディーノさんをいっぱい感じられて幸せ……) ディーノの温もりが、鼓動が、ずっと求めていたものがすぐ側に在る。 (でも……) 愛しい人の全てが自分を満たしていくのを確かに感じているのに、胸の中の引っ掛かりは消えずに残ったままだった。 「ツナ? 何かさっきから様子がヘンだが、どうかしたか? もしかして、この時代のオレと会うのはこれが初めてだから、緊張してんのか?」 「あ、いえ、そういう訳じゃないんですけど……」 この人は自分のほんの僅かな心の動きも見逃さないんだなぁと、それを嬉しく思う反面、気遣ってくれるディーノにちゃんと応えられない自分が歯痒かった。 俯いて口を噤んでいると、優しく諭すような声が聞こえてくる。 「さっきの事なら、会って早々キツい事言ってすまなかった。でも匣が使いものにならなくなってからじゃ遅いんだ。匣や修行に関しては例えツナでもオレは贔屓も甘やかしもしない。さっきみたいにキツい事も言わせてもらう。それは分かってくれるか?」 修行という言葉を聞いてパッと顔を上げると、真剣な色を湛えた瞳がこちらに向けられていた。 その瞳を真っ直ぐ見つめながら頷くと、微笑みと共に大きな手がぽんと頭の上に乗せられる。 「あの……やっぱりディーノさんが明日からの修行の家庭教師してくれるんですか?」 「ん? あぁ、明日全員揃った時に言うつもりだったんだが、さっきリボーンと話し合って、今回の修行はオレが全体を仕切らせてもらう事になった。だから匣や修行の事は明日改めて話すよ」 よろしくな、と頭を撫でられ思わず顔が綻ぶ。 でも、それもほんの一瞬だった。 明日からはディーノが側に居てくれると分かって凄く嬉しいはずなのに、忘れている何かを思い出させるように胸がチクッと痛む。 (まただ……何でこんな気持ちになるんだろう。ずっと会いたかったディーノさんは今目の前にいるのに) 抱き締められ、その存在を確かに感じているのに、胸にぽつんと空いた小さな小さな穴がいつまで経っても埋まらず、チクチクと疼いているような感覚が消えない。 「ん? ツナが気にしてる事ってボンゴレ匣の事じゃなかったのか? うわ、オレ何勘違いして説教臭い事言ってんだろ……ワリィ!」 「あ、いえ、その事も気になってましたし……あの……」 未だ晴れない気持ちがまた顔に出てしまっていたようで、ディーノに謝らせてしまった。 パン、と顔の前で両手を合わせて謝るディーノに慌てて弁解しようとしたが、自分が抱いているこの引っ掛かりを何と説明したらいいのか分からず言葉に詰まってしまう。 「いや、でもやっぱりごめん。修行が始まったら終わるまで甘やかさないって決めたから、その分今夜はうんと甘えさせてやろうと思ってここに来たんだ。なのにオレは……」 「あ、あの……さっきの事なら、ディーノさんの言う通り匣が使いものにならなくなったら困るし、みんなに迷惑かけちゃったから……それに、ディーノさんが来てくれて、本当に嬉しかったんです。でも……」 すまなそうに頭を掻くディーノに罪悪感が募り、何とか自分の気持ちを話そうとするがどうしても途中で言葉が出てこなくなる。 「…………ごめんなさい。何でこんな気持ちになるのか、自分でもよく分からないんです」 迷った末、正直に告げた。 申し訳なさでいっぱいになっていると、ディーノの手が再びぽんっと頭に置かれる。 「よければ話してくんねーか? 自分じゃ分からない事でも、誰かと一緒なら何か見えてくる事もあるしさ」 「ディーノさん……」 ディーノと一緒なら、欠けているものが何か、見つけられるような気がした。 でも、会えて嬉しいはずなのに何かが胸に引っ掛かっているなんてディーノ本人に話すのは躊躇われる。 口篭もっていると、大きな手が不安を拭い去るようにくしゃくしゃと髪を掻き混ぜ始めた。 その優しい手が『大丈夫』と告げているようで、撫でられる度に心が軽くなっていく。 「オレ……」 あんなに出てこなかった言葉が唇から自然と零れ出てきた。 「ずっと会いたかったディーノさんにやっと会えて、こうして抱き締めてもらえて嬉しいのに……何でか分からないけど、胸が苦しくなっちゃうんです」 ディーノの反応を見るのが怖くて、下を向いたまま言葉を続ける。 「ディーノさんは今オレの目の前に居るのに……淋しい気持ちが消えずに胸に残ってるみたいで……」 もう一度、その存在を確かめるように胸に顔を埋めてみる。 匂いも温もりも、自分がよく知るディーノのものだった。 それなのに、ずっと遠くにあるものを恋しく思うようなこの気持ちは何なんだろう。 「本当に嬉しいのに、何でこんな気持ちになっちゃうんだろ……ごめんなさい」 「謝らなくていい。話してくれてあんがとな」 話し終えた後も、大きな手は髪を優しく撫で続けてくれている。 その手にどこかホッとしながらディーノの言葉を待っていると、頭から手が離され、代わりに強く抱き締められた。 「ハハ……やっぱお前とオレは似てるな」 「え? 似てる?」 「オレも今のお前と同じ気持ち、感じてるから」 意味が分からずにいると、少し間をおいてからディーノは続けた。 「オレもな、ミルフィオーレの日本支部に突入したお前達が無事アジトに帰ってきたって聞いてすげー安心して、いい顔で笑ってるのをこの目で見て、こうしてツナを抱き締められて、本当に嬉しいんだ。なのに、何かが欠けたまま埋まらないような、そんな気持ちになって……」 背に回された腕に力が込められ、それが何だかディーノが甘えてきているように思えて、自分も両手を伸ばすとそっと大きな体を抱き締めた。 「オレは今目の前に居るお前が大切だし、心から愛しいと思う。でも、気付いたんだ。オレが本当に会いたいと思ってるのは、同じ時を生きてきたツナなんだって」 「あ……」 ディーノの言葉が暗闇の中の一筋の光のように心に差し込んでくる。 (オレも、10年後のディーノさんに会えてすごく嬉しくて、匂いも温もりも、部下の人が側に居ないとへなちょこになっちゃうところも、オレの知ってるディーノさんとちっとも変わってなくてホッとしたのは本当なんだ。けど……) おぼろげだったものが少しずつ形となっていく。 (オレが本当に会いたいと思ってるのは、過去のディーノさんなんだ) 次の瞬間、視界がパッと開けた。 「ツナ?」 名を呼ばれハッと我に返ると、目から涙が零れているのに気付く。 「あ、あれ? おかしいな……ディーノさんのお陰で分からなかった事が見えて心がスッと軽くなったのに、何で涙が出るんだろ……」 「分からなくても、涙が出るなら素直に泣いとけ。それだけ気持ちが溜まってたって事だからな」 分からない涙の理由に困惑していると、ポン、とまた頭に大きな手が乗せられる。 「この時代に来てからずっと大変だったろ。今までよく頑張ったな、ツナ」 「ディ……ノさ……」 ずっとこんな風に、ディーノに頭を撫でてもらいたいと思っていた。 望めば望むだけ辛くなるから、その思いは胸の奥に押し込んでいた。 (ディーノさんはいつもオレの気持ち分かってくれて、望んでいるものを満たしてくれるんだ……) 一番恋しい人は同じ時代に生きるディーノだけれど、何年経ってもやっぱりディーノはディーノだと、そう思った瞬間涙がぽろぽろと堰を切ったように溢れてくる。 「う、うぅ…………うあぁ、わああん!!」 過去のディーノが恋しいとか、10年後もディーノが変わらないままでホッとしたとか、いろんな気持ちがごちゃごちゃに混ざり合って、堪らずわあわあと声を上げて泣いてしまった。 そんな自分を、ディーノはただ黙って、涙が止まるまでずっと優しく抱き締めていてくれた。 「すみません、ディーノさん。せっかく会いに来てくれたのに、みっともないとこ見せちゃって……」 「オレだってさっきカッコ悪いとこ見せちまったし、オレといる時はみっともないとかそういうの気にすんなよ。な?」 ひとしきり泣いて落ち着くと、大好きな人の目の前で子供みたいに大泣きしてしまった事が急に恥ずかしくなってきてしまった。 ディーノの顔を見ていられず俯いていると、涙と鼻水でグチャグチャになった顔にピトッとハンカチが当てられる。 「ダ、ダメですっ! オレ、鼻水出ちゃってて汚いから!!」 「鼻水なんかどーってことねぇよ。ツナのなんだし。ほら、拭いてやるからじっとしてろ」 そう言われても申し訳ないとハンカチを握るディーノの手から逃れようとするが、頬をもう片方の手で押さえられてしまった。 アワアワしている間に顔が優しく丁寧に拭われていく。 「これでよし、と」 「す、すみません……ありがとうございます」 「いいって。それよりツナ、いっぱい泣いてスッキリしたか?」 「は、はい」 まだ残っている涙の跡を見られるのは恥ずかしかったけれど、拭ってもらった顔を伏せたままにしておきたくなかった。 「ディーノさんのお陰でずっと引っ掛かってたものが消えて、心の中がぱーっと明るくなった気がします」 顔を上げ、今の素直な気持ちをディーノに伝えると、心配そうに覗き込んでいる顔がいつもの笑顔に変わる。 「そっか、それならよかった。やっぱツナはそうやって笑ってる顔が一番いいな」 「え、そ、そんな……もう、ディーノさんってば……」 いきなりドキッとするような事を言われ、さっきとは別の意味でディーノの顔を見ていられなくなり、赤くなった頬を隠すように下を向いた。 こういうところも10年前と変わってないなぁと思いながら視線を床に向けたままでいると、急にふわ、と体が宙に浮く。 「え? え!?」 「そんじゃ、スッキリしたところでそろそろ寝ないとな……寝不足で修行に身が入らないなんて事になったらリボーンにドヤされる」 不意打ちの横抱きで頬の赤みが更に増し、何か言おうにも言葉が出てこず口をパクパクさせている自分を余所に、ディーノはスタスタと部屋の奥へと入って行った。 「10年前のツナってこんなに軽かったんだな……」 「…………」 そう呟くディーノの声はどこか淋しげで、口から出かかった「恥ずかしいから降ろして」という言葉をぐっと飲み込み、しがみつくように首に腕を回すと、額に温かく柔らかいものが触れてきた。 そのままベッドへと運ばれ、そっと寝かされる。 (もしかして、一緒に寝てくれるのかな……) 毛布の端を掴むディーノの手に胸が高鳴るが、その手は肩まで毛布を掛けてくれるとすぐに離れていった。 (え? あれ?) 「寝ようとしてた時にいきなり来ちまったオレが言うのも何だが、ゆっくり眠れよ」 すっかり同衾する気でいたのに、ディーノは自分をあやすようにぽんぽんと毛布を叩くと明かりを落としてしまった。 部屋の中が暗闇に包まれ、ディーノの顔がおぼろげにしか見えなくなる。 「そんじゃおやすみ、ツナ」 「あ、ちょ……待っ……」 気が付くと、立ち去ろうと背を向けたディーノに手を伸ばし、服の裾を掴んで引き止めていた。 「ツ、ツナ!?」 「……行っちゃうんですか?」 何だか淋しくなってきて、驚き振り向いたディーノをじっと見つめる。 暗くてよく見えなかったが、ディーノの顔がかぁっと赤くなったような気がした。 「明日から修行の家庭教師、してくれるんですよね? ミルフィオーレとの戦いが終わるまで、一緒に居てくれるんですよね?」 困らせたい訳じゃないのに、言葉が口を突いて出てしまう。 ディーノは何かを考えるように黙ったまま、ポリポリと頭を掻いていた。 (ごめんなさいって言って、手離さなきゃ……) そう思っているのに、指がディーノの服にくっついてしまったかのように離れない。 「いや……その、な。オレも最初はツナと一緒に寝ようと思って、ここに来たんだ」 しばらくの沈黙の後、ディーノがボソッと話し始める。 「でも一緒に寝たら……何つーか、その……やっぱり我慢出来そうにねぇなって……」 「!!」 今度は自分の顔が赤くなる番だった。 (ディーノさんと一緒に寝たかっただけなんだけど、もしかして誘ってると思われちゃった!?) 知らず知らずの内に大胆な行動をしてしまったと、火照った顔が更に茹だっていくのを感じる。 「あ、あ、あ、あのっ……オレ、そういうつもりじゃ……」 言いかけて、ハッと口を噤んだ。 (ホントに最初はそういうつもりじゃなかったけど……でも……) もしディーノと一緒に毛布に包まったら、きっと自分もそれ以上の事を求めてしまうだろう。 本当にそういうつもりはなかったのかと問われたら否定しきれない自分に気付き、何も言えなくなってしまった。 「あ……スマン。ツナがそういうつもりじゃなかったのは分かってるから、そんな顔しなくても大丈夫だぞ」 「い、いえ、あの……」 申し訳なさそうに謝りながら頭を撫でてくるディーノに罪悪感を覚えるが、自分も同じ気持ちだとは恥ずかしくて言えず、ゴニョゴニョと言葉を濁してしまう。 「そういうワケだから、オレ他の空き部屋で寝るよ。あ、でも、もしまた何か考え込んじまうような事があったら、そん時はちゃんと言えよ」 「…………」 「ツナ? 手ぇ離してくれねーと行けないぞ?」 「えと……その……」 いざとなると恥ずかしくてつい口篭ってしまうが、自分の気持ちをちゃんと言わなくてはと意を決し、キュッと結んだ口を開いた。 「…………オレ、ディーノさんと一緒に寝たいです。ここに、居て下さい」 「なっ……お、お前、自分の言ってる事の意味、分かってんのか!?」 今ので勇気の大半を使い果たしてしまったのか、唇が震えて声が出て来ず、ディーノの顔もまともに見ていられなくなってしまった。 それでもディーノの服の裾はしっかりと掴んだまま、コクンと頷いて見せる。 「んな事言われたら、本当に我慢出来なくなっちまうぞ」 「はい……オレも、ディーノさんと……同じ気持ちだから」 何とか声を振り絞って答え、チラと様子を伺った。 驚愕の色を見せていた瞳が真剣なものに変わり、真っ直ぐこちらに向けられる。 「…………いいのか?」 「はい、あの……目覚ましかけてますし、時間になったらちゃんと起きます。修行も気を引き締めて頑張りますから!」 「あ、いや……それもそうなんだけど、そうじゃなくって……」 「?」 的外れな事を言ってしまったのか、ディーノは毒気を抜かれたようにハハッと声を上げて笑った。 「え、オレ何か変な事言っちゃいましたか!?」 「いや、変じゃねーよ。それも大事な事だしな。つーか、それはオレの方が失念してた」 ワリィ、と頭を掻きながら笑うとすぐ真剣な面持ちに戻り、もう一度問いかけてくる。 「オレに抱かれても、過去のオレへの気持ちは変わらねーって自信持って言えるか?」 「過去の……ディーノさんへの気持ち……」 目を閉じて、過去のディーノの顔を頭の中に思い浮かべた。 何があっても揺ぎ無い、一番大切で愛しい人への想い。 それがハッキリ見えた今、迷いはなかった。 「はい! 変わらないって、自信持って言えます」 ディーノの目をしっかりと見つめ、答える。 しかし一呼吸置いて、矛盾のようなものに気付いてしまった。 「あれ、でもこれって……同じディーノさんでも浮気になっちゃうのかな……どっちもディーノさんだけど、オレ、10年後のディーノさんを過去のディーノさんの代わりとか、そんな事全然思ってないのに……」 「大丈夫、それもちゃんと分かってる。オレもそうだからな」 首を捻っていると、ディーノが優しく微笑みながら頭を撫でてくる。 「オレもこの時代のツナの代わりにお前を抱きたいんじゃない。オレにとっての一番はこの時代のツナだけど、ツナはツナだから、どの時代のツナの事も愛してるし抱きてーって思っちまうんだよな。まぁ、これが浮気かどうかって聞かれたら、うまく答えられないんだが……」 ディーノは苦笑いすると、一旦言葉を切ってから続けた。 「ホントはちょっと心配だったんだ。オレがお前と深く関わる事で、過去のオレとの関係に影響出ちまったらどうしようって。オレとこの時代のツナが築いてきた時間があるように、お前はお前と同じ時を生きるオレと二人だけの時間を築いてほしいから。でも杞憂だったな」 頭を掻きながらその場にしゃがんだディーノと目の高さが同じになって、視線が合わさる。 「そんだけ気持ちがしっかりしてりゃ大丈夫だ。ツナの過去のオレへの真っ直ぐな想い、オレにもちゃんと伝わってきたぜ」 そう言ってニッと笑うディーノに何だかホッとして、自分も同じように笑みを零した。 二人でひとしきり笑い合った後、ディーノがそっと頬に手を伸ばしてくる。 「ツナ、改めてオレからお願いするぜ。一緒に寝ても、いいか?」 「は、はい……オレも、ディーノさんと一緒に……寝たい、です」 「……途中で止まんないぞ。それでも?」 さっきまでの柔らかい雰囲気とは一転し、ディーノの瞳が妖艶な光を帯びる。 雄の顔になったディーノにゾクリと背筋が粟立つのを感じながらコクリと頷くと、次の瞬間、視界が反転した。 「んっ……あ……」 最初は触れるだけの、優しい優しいキス。 額に、瞼に、鼻先に、頬に、顎に……そして唇に降ってくる。 どんなに年月を経ても変わらないその温かくて優しいキスに涙が出そうになった。 ちゅ、ちゅっと啄ばむようなキスが繰り返された後、唇で唇をなぞるようにディーノの顔がスッと左右に動く。 まるで頭を撫でられているような、そんな心地良さを感じていると、不意に唇を舌でつぅっとなぞられビクンと体が跳ねてしまう。 「ビクッてしちゃって……可愛い」 クスッと笑われ、自分でも分かるくらい一気に顔が紅潮してしまった。 (も〜、ディーノさんってば! エッチになるとスキがなくなるトコも全然変わってない) 照れながらも変わらないディーノにどこかホッとしていると、再び口付けられる。 今度は唇で唇を包むようにして、はむはむと甘く噛んできた。 「ん、んん……」 何度か柔らかく食んだ後、ディーノの舌先が催促するようにツン、ツンと上唇と下唇の間の僅かな隙間をつついてくる。 おずおずと唇を開くと後頭部に手を回され、深く口付けられると同時に熱い舌が滑り込んできた。 (ディーノさんの舌、コーヒーの味する……) ディーノの舌が擦り付けられると、そこからじわじわと苦味が広がってくる。 そのままゆっくり、ねっとりと舌を摺り合わせていると、苦味がほんのり甘味へと変わっていくように感じられた。 (あ、これ……甘いんじゃなくて、ディーノさんの……唾液の味……) 苦味が薄れていくにつれ、記憶に刻みついている大好きな人の味が口内に広がっていく。 その味をもっとと求めるように、ちゅくちゅくと音を立てながら舌と舌を激しく絡み合わせる。 どちらのものか分からない唾液が口の端から零れるのも気にせず、夢中になってお互いを貪り合った。 「ぷは……あ、ん……ふ、ぅん……」 キスの合間に大きく息継ぎするが、すぐにまた口付けられ鼻からくぐもった音が漏れる。 今度は歯列や歯茎をぐるりとなぞられ、そのまま舌で口内を掻き回された。 「んっ、は……あっ……ん……」 ディーノの舌先が、頬の裏側や上顎までも余すことなく舐め上げていく。 その目まぐるしい動きについていこうと自分も懸命に舌を伸ばすが、それは呆気なくディーノの歯に捕らえられてしまった。 舌先をかぷと甘噛みされ、一瞬ビクッとなってしまった隙により深く口付けられる。 そのままディーノの唇が舌を挟んできて、強弱をつけてちゅ、ちゅっと吸い上げられた。 「ん、んむっ……んんぅっ!」 最後に一際強く舌を吸い上げられた後、ちゅぽ、と音を立ててディーノの唇が離れていった。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 ようやく唇を解放され、だらしなく舌を出したまま新鮮な空気を肺に取り込む。 (すごい……キスだけでどうにかなっちゃうかと思った……) 暗闇の中、未だ切れずに残っている細く透明な糸がさっきのキスの激しさを物語っていた。 顔が火照るのを感じながらそれをぼんやり見つめていると、不意に糸がぷつりと切れ、同時に部屋の中が明るくなる。 「えええっ!?」 急に視界がクリアになり、反射的に両手で顔を隠してしまった。 「え、ちょ、な、何で電気つけちゃうんですか!?」 「ん? だってツナの事ちゃんと見たいから。ダメか?」 「ダメです! 明るいところでなんて恥ずかしいし、目もまだ腫れちゃってるし……」 たくさん泣いたせいか、まだ少し目が腫れぼったい気がする。 泣いて腫れた目を見られるのは、何故だか明るいところでセックスするのと同じくらい恥ずかしく思えた。 明かりが消えるのを今か今かと待つが一向に消えず、焦れて両手を少しだけずらしてチラと様子を窺う。 「ツナ、大丈夫か?」 「わっ!?」 絶妙なタイミングで顔を覗き込まれ、思わず声を上げてしまった。 「んー、確かにちょっと腫れちまってるかな……」 「や、やだ、見ないで下さいっ!」 驚きのあまり退かしてしまった手を慌てて戻そうとするが、ディーノはそれを遮って両の瞼に一つずつキスを落としてくる。 「!?」 突然のキスにドキッとしている間に前髪を掻き揚げられ、今度は額に触れるだけのキスをされた。 「やだって言ってんのに、無理に見ちまってごめんな」 囁きと共にディーノの顔がサッと離れ、部屋の明かりが落とされる。 部屋の中が再び暗闇に包まれ、これで泣き腫らした顔を見られずに済むと安堵するが、ディーノの姿もまた闇に溶けてしまった。 明かりを消して欲しいと望んだのは自分なのに、ディーノの顔がおぼろげにしか見えなくなると急に淋しさが込み上げてくる。 (電気消すとディーノさんの顔がちゃんと見えない……でも、明るいと全部見えちゃって恥ずかしいし……) 淋しさと恥ずかしさの間で葛藤していると、ぼんやりとした姿が近付いてきて体の両脇に手をついた。 「オレの前では泣き顔とか気にしないで欲しいけど……でもやっぱ、男が人にそういう顔見られんのは恥ずかしいよな、スマン。これなら泣いた跡までは見えてねーから大丈夫だぞ」 「ディーノさん……」 二人分の重みでベッドが沈むのを感じながらディーノを見上げると、優しく笑っている顔が微かに見える。 その笑顔の純粋さに、ハッとさせられた。 (ディーノさんはこんなにオレの事考えてくれてるのに、オレはさっきから自分の事ばっかりだ……) 優しいキスや掛けてくれた言葉を思い出す度に、チク、チクと胸が痛む。 (自分は見られたくないのにディーノさんの事はちゃんと見たいなんて、ズルいよね) 好きな人の事をちゃんと見たいと思う気持ちは同じなのにと、今更になって気付く。 もし逆の立場なら、どんな姿も見せて欲しいと思うし、どんな姿を見ても自分の想いは変わらないのに、と悲しくなるだろう。 『オレといる時はみっともないとかそういうの気にすんなよ』 その言葉が確かな意味を持って胸に染みてくる。 (どんなに恥ずかしくても……ディーノさんにならオレ、全部見られちゃってもいい) 気持ちが定まると、恥ずかしさなんてどこかへと行ってしまった。 「あ、あの……」 キスをしようと近付いてきた顔を片手でそっと止めると、ゴクッと唾を飲み込み、言った。 「電気……やっぱり、つけたままがいいです」 ディーノは一瞬驚いたような顔をしたがすぐに真剣な顔つきになり、頬に触れた手に自分の手を重ね、真っ直ぐこちらを見つめてくる。 「無理しなくていいんだぞ。ツナが本当に嫌な事はしたくないから」 首を横に振って見つめ返すと、今の気持ちを言葉に紡いだ。 「嫌じゃないです。それに、暗くてディーノさんの顔がよく見えないの、何か淋しくて……」 「ツナ……」 「オレも……ディーノさんの全部、見たいです。もっといっぱい、ディーノさんを感じたいです。見られるのは恥ずかしいけど、気にすんなって言ってくれたし、ディーノさんになら、オレ……」 その先を言葉にするのは恥ずかしくて、目線を逸らし胸が鎮まるのを待っていると、不意に強く抱き締められた。 「ツナ、やっぱお前すげー可愛い!」 「ええー!? な、何でそこで『可愛い』なんですか!?」 抱き締められるのは嬉しいけれど、何故可愛いと言われたか分からず頭の中に疑問符が飛び交う。 「オレが可愛いと思ったから可愛いんだよ。今の、キュンとしちゃったぞ」 何その理論、とますます訳が分からなくなっていると、掛けられていた重みがふっと軽くなった。 「あんがとな、ツナ。オレもやっぱりお前の事ちゃんと見たい。二人で感じ合いたい……電気、つけるな」 少しの間をおいて、部屋の中がパッと明るくなる。 ディーノの姿が目に入ると、今までおぼろげにしか見えなかったせいか酷くホッとし、同時に嬉しくなった。 それはディーノも同じだったようで、こちらに向けられたその顔はニッと満面の笑みを浮かべていた。 「ツナにばっかり恥ずかしい思いさせてるから、オレから脱ごっかな……」 スイッチから手を離しぽつりと呟くと、ディーノはTシャツに手を掛けおもむろに脱ぎ始めた。 脱いだTシャツをバサッと床に放り投げ、そのままカーゴパンツも一気に脱ぎ捨てる。 少しずつ露わになっていく体から目を離せずにいると、いきなりバチッと目が合ってしまった。 ディーノは何か企むようにニッと笑うと下着に掛けかけた手を止め、何となくバツが悪くて目を逸らしてしまった自分の腰を跨ぐように膝立ちになった。 「これがお前から見て10年後のオレだ。どうだ?」 その声に逸らしていた顔を戻し、ディーノを見上げる。 芸術には興味なかったけれど、彫刻のように均整がとれた体に思わず溜息が漏れた。 時を忘れて見惚れていたが、言葉を待っているような視線を向けられているのに気付き、うっとりとした気分のまま口を開く。 「過去のディーノさんの体も逞しくて綺麗だなっていつも思ってるんですけど、10年後はますます磨きがかかって……素敵です」 「そっか? あんがとな。でもこれ、ツナのお陰なんだぜ」 「へ? オレの?」 「あぁ。頑張ってるツナ見てオレも負けてらんねーなって、自己鍛錬を怠らないようにしてたんだ……ツナに素敵って言ってもらえて嬉しいぜ」 10年後といえども自分がディーノにそこまで言わせるような人間になっているなんて、とても信じられなかった。 10年後、自分は一体どんな人間になっているのだろう。 知りたいような知りたくないような、そんな気持ちに駆られるが、頭を掻きながら照れたように笑うディーノの顔を見ていたら未来の自分の事なんてどうでもよくなってしまった。 自分よりずっと年上なのに何だか可愛いなぁ、なんて思いながら見つめていると、またばっちり目が合ってしまう。 「褒めてくれたのは嬉しいけど、これだけでいいのか? オレはまだ全部見せてないぜ」 目が合った瞬間、ディーノの表情が照れ笑いからニヤニヤといやらしい笑顔に変わる。 「え? あ……」 始めは言葉の意味も表情の変化の理由も分からず小首を傾げていたが、ある一点に目が留まり、ディーノの言わんとしている事が分かって顔がボッと赤くなった。 (さっきは上半身だけ見てすぐぽーっとなっちゃったから気付かなかったけど……ディーノさん、もうおっきくなってる……) 黒のボクサーパンツの中心には欲望の形がくっきり浮き出ていて、そこから視線が動かせなくなる。 「ツナ、さっきオレの全部見たいって言ってたよな?」 膨らみを見ているだけで全身がじわじわと熱くなってしまう自分に、追い討ちのような一言が放たれる。 「全部見たいなら、後はツナが脱がせて」 「ええっ!?」 慌てて顔を上げるが、ディーノはいやらしげな笑みを浮かべたままそれ以上は何も言わなかった。 (うぅ……ディーノさんてば、エッチの時意地悪になっちゃうところも全然変わってない……) 恥ずかしい事を要求され困ってしまう反面、エッチの時まで変わらないままのディーノを嬉しく思っている自分に気付き、全身の火照りが加速する。 だんだんと脳が熱に浮かされたように高揚してきて、引き寄せられるようにゆっくり上半身を起こすとディーノの下着にそっと手を掛けた。 そのまま震える手で下着をゆっくり引き下げていくと、ペニスの先端がウエスト部分に引っ掛かって下向きになってしまう。 おぼつかない手でその引っ掛かりを解くと、ペニスはバネのように反動で跳ね上がり、ベチン! とディーノの腹を叩いた。 (あぁ……す、すごい……) 全身がゾクゾク震えるのを感じながら下着を太股までずらすと、目の前のペニスをじっと見つめる。 サイズは自分がよく知るソレよりも心なしか大きくなっており、一段と増した赤黒さがこの10年でどれだけ使い込んできたかを物語っていた。 (こっちもすっごく逞しくなってる……) その禍々しいまでの容貌に、受け入れたら壊れてしまいそうだと慄くが、体の奥は目の前の逞しいペニスで貫かれる事を期待しているかのようにジンジンと疼きを増していった。 「見てるだけでいいのか?」 「!?」 我を忘れて食い入るように見つめていると、突然頭の上から声を掛けられ過剰なまでにビクッとしてしまう。 反射的に顔を上げると、ディーノがからかうように笑っていた。 「見つめられすぎて穴が開いちゃうかと思ったぜ。ツナはエッチだなー」 「なっ……」 違う、と否定しかけるが、ペニスに見入ったまま己の世界に浸ってしまった自分に反論の余地はないと、開きかけた口を閉ざしてしまった。 「ツナにじーって見られて、オレすげー興奮してきちまったんだけど、続きしてくんねーの?」 シーツに視線を落としたままでいると、艶めかしい声が耳をくすぐる。 輪郭や溝、耳裏から穴まで余すところなく指先でなぞられているようでゾクリとした。 (ディーノさんの声、何かエッチ……ううん、声だけじゃない。10年後のディーノさん、全体的にエロ度が上がってるよぉ……) 10年後のディーノは全身から放たれるエロスなオーラにまで磨きがかかっていて、それを肌にビンビン感じる。 顔を上げられずにいると、その声は更に艶を増し、耳の奥をすぅっと通って誘うように脳を揺らした。 「ツナ……触って。10年経ったオレのチ×ポ、その手でちゃんと確かめて」 「……は、はい」 頭の芯がクラクラするのを感じながら顔を上げると、言われるままにふらふらと手を伸ばし、眼前にそびえるペニスにピトッと触れる。 そのまま掌で撫でるようにゆっくりとその形をなぞっていった。 (すごく熱くて硬い……それに、ゴツゴツしてる) サオの部分に浮き出た血管の感触に思わず息を飲む。 こんな節くれ立ったペニスでお尻の中をゴリゴリ擦られたら、自分は一体どうなってしまうのだろう。 不安と、それを上回る期待に熱い息を零しながら、天を仰ぎそそり立つペニスに何度も手を滑らせる。 「なぁ……黙ってないで、声に出して聞かせて。オレのチ×ポ、どう?」 今度はもっと別の場所を確かめようと茶褐色の袋に手を伸ばしたところで、ディーノが軽く息を弾ませながら口を開いた。 何と言えばいいか分からず、必死に言葉を探す。 「えと、ディーノさんの……石みたいにコチコチで……」 「オレの、何が? 最初からちゃんと聞かせてほしいな。なぁ、ツナ。お願い……言って?」 「う……そ、それは……」 やっとの思いで捻り出した言葉もあっさりかわされ、更にハードルを上げられてしまった。 一瞬口篭るが、強請るようなその声に操られたかのように、頭に思い浮かべながらも口にしなかった言葉が喉の奥から漏れ出てくる。 「ディーノさんの、チ×チ×……石みたいにコチコチで……ゴツゴツしてて……色も変わっちゃってて、何だか別のモノみたいです……」 あんなに出て来なかった言葉が今は口からどんどん出てきて、手が勝手に動いて袋を撫で回す。 「たっ……タマタマも、パンパンに張ってて……こっちもすごく熱い、です……」 掌に感じるずっしりとした重みに、はぁ、と熱い息が漏れた。 (こんなエッチな事自分から言って……オレ、興奮しちゃってる) 淫語を一つ吐き出す度に体の奥がキュンとして、気持ちが昂っていくのが分かる。 内股をモジモジさせながらチラと見上げると、ディーノは満足げに笑っていた。 「この10年、ツナといーっぱいエッチしてきたからな。こっちも大分鍛えられたぜ。やっぱ恋人とは何年経ってもラブラブエロエロでいたいし」 な? と同意を求めるような視線を送られ、ぽっと頬が染まる。 (10年間ディーノさんとオレがラブラブだったのは嬉しいけど、エロエロなんて言われると、やっぱりちょっと恥ずかしい!) ストレートに愛を語られると自分の方が照れてしまい、またパッと下を向いてしまった。 (あ、また……オレさっきからこんなのばっかり……) これじゃいけないと下げたばかりの顔を慌てて上げると、ちょうど目線の高さにディーノのペニスがあって思わず固まってしまった。 今のやり取りで鎮まりかけていた昂りが、瞬時に甦ってくる。 (このすごいチ×チ×を、10年後のディーノさんと生きてきたオレがずっと……) もう一度目の前のペニスをじっくり見つめると、先端から先走りが滲み出ているのに気付いた。 (先っぽ濡れてる……ディーノさんもオレがエッチな事言うの聞いてて、もっと興奮してきちゃったのかな……) テラテラと光る先端を見ていると、さっきはいっぱいいっぱいで気付かなかった匂いが鼻を掠める。 (これ……ディーノさんの、エッチな匂い……) 体が覚えている、ディーノの雄の匂い。 いつもより若干匂いがキツく感じられたが、本質的なものは10年前と少しも変わっていなかった。 (この匂い嗅いでると、オレ……変になっちゃう……) その独特の匂いに頭の中が蕩けてくる。 気が付くと、両手でペニスの根元を掴んで濡れ光る先端に口を近付けていた。 「ツナ!? ま、待て!」 「?」 静止の声が耳に入り、とろんとした目で見上げる。 「実はさ、今日風呂入ってねーんだよ。ホントはもっと早くここに着く予定だったから、あわよくばツナと一緒にって思ってたんだけど、何か時間食っちまって入り損ねて……」 恥ずかしそうに頭を掻くディーノを横目で見ながら、それでもなお愛する人の味や匂いをもっと感じたいと、躊躇なく先端をパクッと口に咥えた。 「ちょっ……だからソコ、汚ねーって! 無理しなくていいから!!」 「ディーノさんのなら、汚くないです……」 慌てて頭を引き剥がそうとするディーノにそれだけ答えると、再び先端を口内に招き入れた。 「お、おい……うっ……」 頭に掛けられていた手の力がふっと抜ける。 「つ、辛くなったら、止めていいから……」 ディーノは搾り出すようにそれだけ言うと、目を伏せ髪をくしゃっと掻き揚げながら切なげな吐息を漏らした。 その仕草にドキドキしながら口の中の先端をムグムグすると、僅かなしょっぱさと例えようのない独特の味が混ざり合いながら広がってくる。 (見た目は変わったけど、匂いも味も変わってない……オレの知ってる、大好きなディーノさんの味……) 変わらないその味が嬉しくて、先端の窪みからじわじわと滲み出てくる先走りを舌先で掬い、何度も何度も舐め取った。 「ぷはっ」 ディーノの味を十分に堪能してから口を離し、大きく息をつく。 その息がかかり刺激となったのか、ペニスがヒクリと跳ねた。 (そういえば、ディーノさんってココ好きなんだよね……) ヒクヒク震える先端を見つめながら、フェラチオの時先端の裏筋を舌でくすぐるとディーノがうんと悦んでくれた事を思い出す。 (10年後も、ココが一番好きなのかな?) 「くぅ、んっ!!」 チロッと軽く裏筋に舌を這わせると、ディーノの背がビクン! と仰け反った。 「やっぱり今もココが一番好きなんですか?」 「好き……ツナにそこペロペロされると、すげーイイ……」 「じゃ、もっとペロペロしますね」 「あぁ、あぁぁぁっ……」 ちゅ、と口付けてから筋をなぞるように舌先を這わせると、ディーノの口から一際高い声が上がった。 ただ舐めるだけの単調な動きにならないよう、触れるか触れないかのソフトなタッチを心がけ、もっとディーノに気持ちよくなってもらいたいと懸命に舌を動かしていく。 「ヤベ……ツナ、ごめん。もうずっとしばらく、ヌイて……ん、んっ……なかったから……オレもうイッちまいそう……」 舌先での愛撫を続けていると、ディーノの切羽詰ったような声が吐息混じりに聞こえてきた。 「せっかくツナが……ぁあ……こんな汚ねーの口でシてくれてんのに……ホント、ごめん……」 「ディーノさんのなら汚くないですってば。それに、ディーノさんが気持ちよくなってくれて嬉しいです。だから……」 言いながら、大切なものを包むようにそっとペニスを握ると、生理的な涙で少し潤んだディーノの瞳をじっと見つめる。 「もっといっぱい、気持ちよくなって下さいね」 「!!」 目と目が合った瞬間、掌の中のペニスがグ、グッと膨らみ、視界が白く染まった。 「ひゃっ!?」 弾け飛んだ熱い飛沫が顔中にビチャビチャ降り掛かり、咄嗟に目を瞑る。 濃厚な匂いが鼻を突き、ドロリと頬を伝うその感触に体が震えた。 「はぁっ、はぁっ……あーもー、チクショウ!イッちまった……」 射精の勢いに飲まれ半ば呆然としていると、息を荒げながら悔しそうに呟く声が耳に届く。 そーっと薄目を開けながら顔を上げると、こちらに気付いたディーノの顔がハッと驚きの色に染まった。 「ス、スマン、ツナ!」 そう言ってディーノは慌ててキョロキョロ辺りを見回すと、さっき自分がシャワー室から戻って来た時に無造作に置いたままにしていたバスタオルを見つけてそれを手に取り、何度も謝りながら顔を拭ってくれた。 「これでよし、と。ホントごめんな、おもいっきり顔にぶっかけちまって。何つーか、その……きゅーんってなっちまって……」 「いえ……オレの方こそ、何かすごくエッチな気分になってきちゃって……」 せっかくタオルで綺麗にしてもらったのに、さっきの事を思い出すと恥ずかしくて顔を上げられなくなってしまう。 ディーノはディーノで気恥ずかしいのか、手にしたままのタオルを無意味に弄んでいる。 しばらくお互い無言でモジモジと俯いていたが、ディーノの様子を伺おうとそっと顔を上げると、向こうも同じ事を考えていたのかばっちり顔と顔が合ってしまった。 驚いてサッと顔を下に向け、しばらく間を置いた後再びそーっと顔を上げると、またも顔が合ってしまう。 あまりにも同じタイミングなのが可笑しくて、二人同時にぷっと吹き出してしまった。 「えっと……あんがとな。ツナがいっぱいしてくれて、嬉しかった」 「いえ……ディーノさんがうんと気持ちよくなってくれて、嬉しいです……」 どちらからともなく寄り添い、キスを交わす。 何度目かのキスをした後、そっと肩を押され背中からベッドに沈んだ。 「情けねートコばっか見せてらんねぇからな。今度はオレの番、な?」 ディーノの声のトーンが変わり、これから起こる事への予感に胸が震える。 「ツナの全部、オレに見せて……」 コク、と小さく頷くと、首筋に噛み付くように口付けられた。 「あぁっ……あ、あぁぁ……」 すっかり出来上がっていたせいか、ディーノの唇が軽く触れただけで声を漏らしてしまう。 喉元から顎まで舐め上げられると全身がゾクゾクと震えた。 手早くパジャマの前を肌蹴られ、露になった肩口や鎖骨にもキスが降り注ぐ。 「あっ、あっ……あぁぁっー」 鎖骨を舌でつぅとなぞられると、また全身がビクビクッと震えてしまった。 「ツナ、すげー反応イイな。オレのチ×ポ舐めてこんな興奮しちゃったんだ」 図星を突かれ、顔が真っ赤になる。 「さっきはツナがオレの事うんと気持ちよくしてくれたからな。今度はオレがツナをうんと気持ちよくしてやるから、恥ずかしがらずにいっぱい感じろよ?」 「あぁぁぁっ!」 返事をする前に脇腹を撫で上げられ、くすぐったさと快感の間のような感覚が背筋を駆け抜け大きな声を上げてしまった。 (マズイ! 隣の部屋に聞こえちゃう!!) ハッと両手で口を押さえ、チラと壁に視線を向ける。 「大丈夫だって。ここは防音しっかりしてるってこの時代のツナに聞いたから」 「そうなんですか?」 頭を撫でられ、壁からディーノに視線を戻すと口を覆っていた手を外す。 「あぁ、だから可愛い声もいっぱい聞かせて?」 「ひぁあ、あぁぁんっ」 今度はお腹から胸まで撫で上げられ、口から手を離してしまった事を少し後悔した。 「お、すべすべ。肌触りいいなー」 「や、も……くすぐったいですっ……ぁぁん!」 ディーノの手が露になった部分をゆっくり優しく撫で回していく。 ただ撫ぜられているだけなのにゾクゾクと背筋が粟立ち、体がシーツの上で何度も跳ねてしまった。 「ホント、反応イイなー」 「ち、違……くすぐったいんです!」 クスクス笑われ、ついムキになって反論してしまう。 「くすぐったいのか? どこらへんが?」 「ディーノさんに触られたトコ、全部です……」 「ふーん、全部かぁ……なぁ、ツナ知ってるか? くすぐったいと感じるところってその人の性感帯なんだってさ」 「なっ……」 「全部性感帯なんだ……だからこんなに反応いいんだな」 「あぁぁぁんっ!」 指先でつつーっと鎖骨をなぞられ、またビクビクと反応してしまった。 「指やキスでこうなら、舐めたらどうなっちゃうんだろうな?」 「や、止め……んっ……んぁ、は、ん……やぁぁっ」 ニヤリと笑うディーノに嫌な予感がして身を固くするが、舌で鎖骨をなぞられた瞬間痺れるような感覚が肩に走り、体の力が抜けていく。 肩全体から鎖骨の窪みまで丁寧に唇と舌でなぞられ、その度に半開きになった口から自分でも恥ずかしくなるような甘ったるい声が漏れ出てしまう。 耐え切れず身を捩り、全身が粟立つような感覚から逃れようとするが、組み敷かれ、両腕をベッドに縫い止められてしまった。 「コラ、暴れんなって。気持ちいいんだろ?」 「く、くすぐったいだけですってば!」 「くすぐったいだけなら、何でツナのココはこんなになっちゃってるのかなぁ……」 「ひぁんっ!」 胸の突起をチロ、と舐められ、また大きく体が跳ねた。 「こんなに乳首ピンと勃たせながら言っても、説得力ねーぞ」 「あ……そんな……ふぁ、ぁあん!」 ディーノの舌先が胸の突起の周囲を、円を描くように這い回る。 押さえ付けられ身動きが取れず、全神経がソコに集中していくようだった。 くりゅくりゅと舌で転がされると更に硬度が増していく。 突起が十分な硬さを持つと、今度はソレを口に含まれちゅっ、ちゅと吸われた。 時折カリ、と歯を立てられると甘い痛みが全身に駆け巡る。 左右両方の突起を交互にたっぷりと愛撫されている間、与えられる快感にひたすら喘ぐしか出来なかった。 「あ……も……乳首ばっかりやだぁ……」 「ん? 他のトコしてほしくなっちゃったか? そんじゃ、今度はこっち……」 「ぁあっ!」 涙目になりながら懇願すると、ディーノは顔を上げて胸の中心からお腹まで舌でつーっとなぞりつつ頭を下げていった。 「ひっ!?」 やっと一番望む場所に触れてもらえると安堵したのも束の間、ディーノの頭は無情にも途中で止まり、おヘソに軽くキスを落とすとその部分を舌でくすぐり始める。 「ひぃぃっ! や、おヘソも……やだっ……ひ、ぅあっ……」 おヘソは快感よりもくすぐったさが先に立ってしまって、本気で逃れようとぐねぐねと身を捩ってしまった。 ディーノもそれを察したのか、さっきみたいな意地悪はせずにすぐ舌を離してくれる。 「おヘソはあんま好きじゃないみたいだな。じゃあ、次はどこがいい?」 「え……」 改めて聞かれるとさっと答えられず、モジモジと内股を摺り合わせた。 「ここか?」 「あぁぁっ!」 膨らんだ股間をムギュと掴まれ、背筋がグン、と仰け反る。 触れる手が布越しなのがどうにももどかしくて、哀願するようにディーノをじっと見つめコクコク頷いた。 「う……そんなウルウルお目々で見られると辛いけど、こっちは後のお楽しみにとっときたいから、もうちょっと我慢な?」 「そ、そんなぁ! お願いです、ディーノさ……ひゃっ!?」 自分ではどうしようもないくらいに張り詰めてしまっているのに我慢と言われ、なおも食い下がろうとするとクルリと体をひっくり返されてしまった。 半ば強引にパジャマの上着を剥ぎ取られ、背中が露になる。 「あれ? 何だこれ……」 その背を目にしたディーノがどこか冷たい声で静かに呟いた。 「え? あ……ぁぁあっ!」 何だろうと顔を背後に向けようとした瞬間、右肩から腰の左側まで斜めにスッとなぞられ、幻騎士との戦いでついた傷を言っているのだと気付く。 「そ、それは幻騎士と戦った時に……痛みはもうないんですけど、跡がまだ残っちゃってて……」 「何!? 幻騎士の奴……ツナにこんな跡つけるなんてムカツクな」 「あ、でも、完全に消えるまで時間はかかるけど、跡は残らないから大丈夫って言われまし……あぁぁ!」 言葉の途中で今度は左肩から腰の右側までなぞられ、愛撫されているわけでもないのに喘ぎを漏らしてしまった。 「いずれ消えるって言っても、しばらくは残ってるんだろ? ツナの体に跡つけていいのはオレだけだ」 「ひぁ……あぁあんっ!」 背中に重みがかかると同時に、ぬめっとした感触が背を斜めに走る。 「ディ、ディーノさんっ! そんなトコ舐めちゃ……やぁあっ……」 ディーノの舌が背中につけられた傷に沿って肩と腰の間を何度も往復する。 「ごめんな、ツナ。オレこう見えて結構ヤキモチ妬きだから、戦いの傷とはいえ他の奴がつけた跡がツナの体に残ってるの、我慢ならねーんだよな」 ディーノがそう言い終えると同時に、背中の中央の、傷と傷が交差する場所に柔らかいものが触れた。 「んっ……」 肌を吸われ、チリッと小さな痛みを感じる。 「キスマーク……つけちゃ、や……です……」 「ダーメ、ツナはオレのって、ちゃんと印つけとかなきゃ」 傷に沿って柔らかい感触と痛みが交互に繰り返され、キスマークを付けられていると気付き慌てて止めるが、ディーノはそれを無視して背に唇を這わせていく。 「そんなの、つけなくったって……んんっ……オレの全部は、ディーノさんの……ぁあ……モノなのに……」 「分かってるけど、やっぱつけたいから……スマン」 「もう……ディーノさんってば……」 もし誰かにキスマークを見られたらという不安もあったが、滅多に妬かないディーノが10年後もこんな風に妬いてくれるのは少し嬉しかった。 傷が一日でも早く消えて、自分の体に残る跡はディーノがつけたものだけになればいい。 背中に甘い痛みを感じながら、そんな事を思ってしまった。 一ミリもあまさず傷の上に跡をつけていったのかと思うくらい長い時間が経った頃、ディーノの唇が傷のない場所に触れ、そのまま背骨に沿って下がっていくのを感じた。 その柔らかい感触は腰の中央で止まり、ふっと消える。 同時に下着に手をかけられ、そのままペロンとずり下げられてしまった。 「うわ、やっべ……ツナのお尻ちっちゃ!」 「ヤダヤダ! こんな半ケツ状態のままにしないで下さいよー!!」 「コラ、隠すなよ」 中途半端に下着を脱がされた状態が恥ずかしくて、両手を後ろに回してお尻を隠そうとするがディーノに遮られてしまう。 「ツナのお尻堪能したら、ちゃんと脱がせてやるから……」 「ひゃう!!」 お尻に何かがピトッとくっつく感触に、ピクンと体が跳ねた。 「腹とは比べ物になんねーくらいすべすべだなー」 「わわ、何してるんですか!?」 「だってよぉ、ツナのお尻ちっちゃくて可愛くて、頬擦りしたくなっちまって……」 「恥ずかしいですってばぁ!! あっ、あぁんっ……」 お尻のすぐ近くにディーノの顔があるのかと思うと顔から火が出そうでジタバタもがくが、ディーノは物ともせずに頬を擦り付けてくる。 (恥ずかしいのに……スリスリされて、お尻に息が掛かって……気持ちいい……) お尻にディーノが漏らした荒い吐息が掛かる度に全身がゾクリと震え、体の力が抜けてしまう。 「ツナ……恥ずかしいとか言って、ホントは感じてるだろ」 「そんな、オレ……そんな事……」 「じゃあ何でそんなお尻突き上げてんの?」 「へっ?」 ディーノの言葉に我に返ると、無意識にお尻を高々と突き上げている事に気付き、頭のてっぺんから足の指先まで真っ赤に染まってしまった。 「やぁ……これ、違っ……」 「何が違うんだ?」 「ひぅぅっ!!」 カリ、と爪先で掻かれ、高く突き上げたままのお尻がブルブルッと震え、止まらなくなる。 「ツナが自分から尻突き上げて誘ってんだから、いっぱい可愛がってやんねーとな」 「や、だから違……ぁああっ!!」 お尻をペロリと舐め上げられ腕に力が入らなくなり、そのままクタリと上半身がシーツの上に崩れ落ちる。 ディーノは上げられたままの腰をガッシリ掴むと、まだ震えが止まらないお尻にキスの雨を降らせた。 「あぁあ、あ、んっ、ぁぁあっ」 唇で触れられる度に口から甘い声が漏れ出ていく。 舌先をつつーっと這わされるとゾクゾクしてきて、誘っているつもりなんてないのにお尻が勝手に揺れてしまい、羞恥に火照る顔をシーツに埋めた。 お尻にだけ集中して与えられ続ける快感に気が遠くなりかけた時、腰を押さえていた手が緩み、ディーノの顔がふっと離れる。 もう体を動かす気力もなく、お尻を高く突き上げたままグッタリしていると、ディーノの手が足の間で揺れている袋へと伸ばされた。 「ツナがピクンピクン跳ねるたびにタマもプルプル揺れて……こっちも可愛い」 「あぁ……はぁっ……」 袋を掌で転がすように揉み上げられ、シーツに顔を埋めたままくぐもった息を零す。 未だ直に触れられずにいるペニスは先端からだらしなくトロトロと先走りを滴らせているのが見なくても分かった。 (タマタマよりチ×チ×触って欲しいよぉ……もう、限界……) 祈るような気持ちで次の愛撫を待つが、無情にもディーノの手はすぐに離れていってしまった。 代わりにお尻に気配を感じ、またディーノが顔を近付けているのだと気付く。 ゆらゆら揺れる袋に息が掛かり、今度は舌の上で転がされた。 「うぁ……あ、ひぁっ……ぅん……」 何とか顔を上げ袋でなくペニスに刺激が欲しいとお願いしようとするが、舌先で弾くように袋を舐められ、口からは喘ぎしか出てこない。 「この頃のツナのタマって、まだこんなちっちゃかったんだなー。丸ごと口に含めちゃいそう」 (!! ダメ……今そんな事されたらイッちゃう! まだチ×チ×触られてもないのに、イッちゃうなんて嫌だよー!!) 早く欲望を吐き出したくて仕方なかったが、ディーノに触れて欲しくて透明の涙を流すペニスを放置されたまま達してしまうのは嫌だった。 例え一瞬で終わってしまったとしても、ディーノの手の温もりを感じながら達したい。そう願った。 でも願いは虚しく、袋全体がぬめっとした感触に包まれる。 「ひぃっ……!!」 袋を口の中でもみくちゃにされ、熱い衝動が腰の奥で弾けた。 「も……出ちゃ……あぁぁっ、あ、あ、あっ、ぁああ!!」 「!?」 ペニスが爆発したみたいに、今までずっと体内に溜まっていたものがドクッ! ドクッ! と吐き出される。 「ツ、ツナ?」 ディーノの声が微かに耳に届くが、体も脳もすぐに快楽の波に飲まれてしまい何も考えられなくなった。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 射精の勢いが衰えると同時に快楽の波もサーッと引いていき、頭の中がやけに冷静になる。 「出ちゃ……た……」 シーツの上に出来た小さな白い水溜りを目にして、急に淋しさが込み上げてきて涙がポロポロ零れてしまい、顔を覆う。 「ツナ……イッたのか?」 「…………」 黙ったままでいると、ふわ、と体が浮いて膝の上に座らされ、後ろからギュッと抱き締められた。 「ツナ、もしかしてお尻いっぱい責められて限界だった?」 「……ディ……んの……手で……イ……かった」 コクコク頷きながら涙で声にならない声で言うと、こめかみや目尻にチュッと口付けられる。 「夢中になっててツナが限界近いの気付かなかった……ごめんな、一人でイかせちゃって。二人でエッチしてるのに、ホントごめん……」 「オレも……言わなかったから……」 今度はふるふると首を横に振りながら言うと、また強く抱き締められた。 大好きな人の温もりを感じて淋しさが和らいだからか、胸が暖かくなるのと同時に、気持ちと一緒に萎えていたペニスがまた熱を持ち始める。 「ツナ、今度はオレをいっぱい感じながらイッて……」 目の端に残っていた涙が唇で拭われ、優しくて大きな手が硬くなりかけているペニスをやんわりと握った。 「二人で一緒に居るのに、一人ぼっちでイかせたりなんてもうしないから。だから、オレを感じながらイッて」 「あっ、ぁあっ……」 白い吐液でヌルヌルになったペニスを上下に扱かれ、すぐにまた達してしまいそうなくらい昂ってくる。 「そんな……したら……ぅん……またすぐ……イッちゃ……ぁあ……」 「オレもこうしながら、ツナを感じてるから……オレの手の中でツナがピクピクしてるの、いっぱい感じてるから……ツナもオレの手、うんと感じて……」 「ぁ、はぁっ……ディーノさんの手……気持ちいい……ディーノさんに、こうされるの……好きぃ……」 だんだんと腰の奥が鈍く疼いてきて、絶頂の予感を感じた。 それを察したのか、体を包む腕に力が篭る。 (こういうエッチが、一番好き……ディーノさんをいっぱい感じながらイクのが幸せ……) 「あ、も、イクッ……また出ちゃうぅっ! ぅぅあ、あ、ああーっ!!」 さっきみたいな淋しいものとは違う、ふわふわ心地よい絶頂感に包まれ、一瞬意識が途切れた。 意識が浮上してくると、さっき作ってしまった白い水溜りを避け、下着を脱がされ一糸纏わぬ姿でベッドに寝かされているのに気付く。 「ツナ、大丈夫か?」 「あ、はい……」 「今度は淋しくなかったか?」 「何かあったかくてふわーってなって……ディーノさんを感じてたから、淋しくなかったです」 「そっか、よかった……えっと……それでな、ツナ。無理しないで答えて欲しいんだけど……」 「はい」 「今日はここで止めとくか? それとも、最後までするか?」 「えっ……そ、それはもちろん……えと、最後まで……したいです」 気遣ってもらえて嬉しいのと、『したい』と口にするのがちょっと恥ずかしくて、頬が熱くなる。 「ん、分かった。あんがとな、最後までしたいって言ってくれて」 「だって……まだディーノさんをちゃんと感じてないから……オレの事も感じてほしいし……」 頬が更に熱くなってくるけれど、今度はしっかり伝えようと、自分の気持ちをちゃんと言葉にした。 「あぁ、オレも今すぐお前を感じたい。でも、慣らしといた方がいいと思うからちょっとだけ準備、な?」 「は、はい……」 準備と言われ下半身の力を抜いて待っていると、予想した通り足を軽く左右に開かれ、その間に埋もれている窄まりに指が触れてくる。 「んっ……」 始めは指先で窄まりの中央をそっと突付くようにしてから、その後ゆっくりと指を根元まで滑り込ませてきた。 久々の、自分の中に大好きな人が入ってくるその感覚に、お尻がムズムズしてくる。 入り込んできた指は中を広げるように動きながら、出たり入ったりを繰り返す。 「あぁぁ……は、あっ……」 しばらくして指は二本に増やされ、それぞれが不規則な動きをしながら更に中を広げていった。 ゆっくり時間を掛け、三本の指を容易に飲み込めるくらいまで解されると、自分の中をいっぱいに広げているソレをぬぽ、と引き抜かれた。 「本当はもうちょっと解した方がいいのかもしれねーけど、もう我慢出来そうにねぇ。スマン」 「い、いえ、オレも……ディーノさんが欲しくて、もう……」 「じゃ、挿れるぞ……」 両膝が胸に付くまで折り曲げられ、熱く硬いものが窄まりに当てがわれる。 それは指とは比べ物にならない程の圧迫感を持っていたが、早く大好きな人を感じたい、大好きな人と一つに繋がりたいという気持ちが強くて、不安や恐怖はなかった。 「辛かったらちゃんと言えよ」 「は、はい……」 グ、グと穴を押し広げながら先端部分がゆっくりと入り込んでくる。 「ぁあ……う、ん、んっ……」 雁首まで挿入されるとピリッとした痛みが走ったが、はぁぁと息を吐き出すと少し楽になった気がした。 そのままディーノの呼吸に合わせて自分も呼吸を繰り返していく。 「う、う、あ、うぁっ! あっ、あぁぁぁっ!!」 何度か呼吸を繰り返し、互いのタイミングが合った瞬間、熱い塊のようなペニスがググググッ! と奥まで一気に入り込んできた。 「全部入った……すげー、ツナん中キツキツ……大丈夫か?」 「ふぁ、い……大丈夫、です……」 ここまでの圧迫感はこれが初めてだったが、ディーノと一つに繋がれた事が嬉しくて痛いとか苦しいとかそんな事はどうでもよくなっていた。 (あのすごいチ×チ×が、今オレの中に全部入っちゃってるんだ……) 赤黒い凶器のようなペニスを思い出し、繋がれた事が奇跡のように思えてきた。 「ゆっくり動くから……ツナ、オレをいっぱい感じて……」 ディーノが腰を引くにつれ圧迫感が徐々に減っていき、また奥の方まで突き上げられる感覚に背が仰け反る。 ゆっくり、ゆっくりとその動きがスピードを増していった。 「ひ、あっ……ぁぁんっ……ゴッ、ゴリゴリしてるぅっ……」 大分慣れてくるとペニスで中を抉られているように感じられて、耐え切れず声を上げてしまう。 「ゴリゴリする? ココ?」 「あっ……ソコ、だめぇ! ゴリゴリされたら、オレ、変に……なっちゃうっ」 「ココなんだ……ほら、いっぱいゴリゴリしてやるからうんと感じな」 「やぁ……あっ、あ、んぁぁっ」 一番イイ部分を雁首で擦るように動かれ、だんだん意識が白濁してくる。 「う……ツナのココ、キュウゥって締まってきた……」 「ディーノ……さん……オレ、もう……持たないかも……」 「ん、オレも……実はさっきから何度ももってかれそうでヤバかった……」 「ディーノさん……今度は、一緒に……」 「あぁ、一緒に……ツナ、ちょっと苦しいかもしれないけど、我慢な……」 「は、はいぃ!」 胸の上で折り曲げられていた足がそっとシーツに下ろされ、ディーノが覆い被さるように抱き締めてきた。 自分もディーノの背に手を回してしがみつくように抱きつくと、目を閉じて全身で大好きな人を感じる。 「はぁっ、はぁっ……ツナ……」 「ぁんっ! あ、ああ、ディ、ノ……さぁんっ……んっ……ぁっ……」 ディーノのペニスが小刻みに痙攣するのを感じ、これから来る衝撃への予感に全身が熱くなった。 「ツナん中、蕩けそうに熱い……このまま、二人でドロドロに溶けちまいてぇ……ツナ、ツナぁ! うっ……くぅぅぅっ!!」 「ディーノさん、の……チ×チ×、熱くて……ぁはっ……おっきくて……頭ん中溶けちゃう! ディーノさんとトロトロに溶けちゃうぅ!!」 ディーノのペニスが一際大きく跳ね、次の瞬間全身が焼き尽くされるかと思うほどの熱い塊が最奥目掛けて駆け抜けていく。 「もう、イッちゃうぅ……ンッ、ア……あ、あ、あっ! あぁぁあああぁーーっ!!」 自分の中のペニスが熱い塊を吐き出し躍動するのを感じながら、自分もまた互いの腹を白く汚しながら達した。 大好きな人と心も体も一体になるのを感じ、幸せな気分で意識を完全に手放した。 「ん……」 心地よい微睡みの中からゆっくりと意識が浮上してくる。 こんなにも暖かく気持ちのよい目覚めはどれくらいぶりだろうか。 静かに瞼を上げると、真っ先に目に映ったのは見慣れた金色の綺麗な髪。 まだぼんやりとした意識のままそれを見つめていると、ふわりと髪を撫でられる。 「おはよ、ツナ」 優しい響きを持つ声が耳に届いてきた。 (ディーノさんだ……あ、そうか。これ、夢かぁ……) 大好きな人の笑顔を見つめながら頬を緩ませると、そのままうとうとと瞼を閉じていく。 再び眠りに沈みかけたその時、はたと気付いた。 (違う、夢じゃない!) 急速に意識が覚醒し、今度はパッチリと目を開いた。 「スマン、起こしちまったか?」 (あ……やっぱり……) 声も温もりも、その姿も、確かにそこにあった。 (やっぱり夢じゃない、本物のディーノさんだ……そっか、昨日10年後のディーノさんと再会して、それから……) 昨夜の事が鮮明に脳裏に甦り、顔から耳から一気に朱に染まる。 「どした? 大丈夫か?」 「あ、いえ……ディーノさんがここに居るの、最初夢かと思っちゃって……」 「夢じゃねーぞ」 「!?」 心配そうに覗き込まれ、恥ずかしさのあまり俯けてしまった顔をもう一度ディーノに向けようとした瞬間、頭を胸元に抱き寄せられた。 トク、トク、と一定のリズムを刻む心音が、今ここにある存在を伝えてくれる。 胸に頬を擦り寄せその鼓動に耳を澄ますと、何だか酷く安心出来た。 「本当に、夢じゃないんですね……ディーノさんがこうして側に居てくれて、幸せです」 「オレも……朝目が覚めて、隣にツナが居るのってやっぱいいな」 そのまましばらくの間、何も言わずただ抱き合った。 互いの存在をしっかりと噛み締めながら。 「よく眠れたか?」 ふと、ディーノがぽつりと呟く。 「はい、久し振りに気持ちよくぐっすり眠れました」 胸元から見上げると、じぃっと見つめ返されて少し照れたけれど、顔は伏せずそのまま大好きな人の顔を眺めていた。 「お、目の腫れ引いてるな」 「ホントですか? よかったぁ……跡が残ったままだったらみんなに心配掛けちゃうところでした。ディーノさんのキスが効いたのかな……」 瞼への優しいキスを思い出しながら、最後だけ小声で呟く。 その呟きを耳にしてディーノは嬉しそうに笑うと、その後少しだけ真剣な顔になって言った。 「ツナ、昨日言った通り修行に関してはオレはお前を甘やかさない。でも、また自分の気持ちが見えなくなったりした時は、オレにちゃんと甘えろよ」 「はい……今はもう大丈夫ですけど、もしまた迷う事があったら、その時は甘えさせて下さいね」 「おう、いつでも遠慮なく甘えてくれな。涙が出たらまたいっぱいキスしてやるから、泣きたい時は我慢なんてすんなよ」 そう言ってディーノはコツンと額と額をくっつけ、ちゅ、と瞼にキスを落としてくる。 それがちょっとくすぐったくて嬉しくて、自然と笑みが零れてきた。 (やっぱりオレ、ディーノさんとこうしてる時間が一番好きだな……) 頭をくしゃくしゃ撫でられながら、ふと過去のディーノとこんな風に過ごした朝を思い出し、少し胸が切なくなる。 ディーノも同じ思いをしているのか、笑顔がどことなく淋しげなものに変わった。 もっとくっつきたくなって自分からそっと胸に擦り寄ると、頭の上から声が降ってくる。 「……お互いの一番にまた会うためにも、頑張ろうな」 淋しげな響きを持つ声に、考えたくなくて頭の隅に追いやっていた事が急に浮上してきた。 (そう言えば、この時代のオレって……) 自分は過去に戻れさえすれば、同じ時代に生きるディーノと共にまた歩んでいけるだろう。 でも、この時代の自分は――もう、いない。 (こんな大事な事に気付かないなんて……オレ、ディーノさんの気持ち全然考えてなかった!!) 慌てて顔を上げると、自分が何を考えているのか分かったのか、ディーノが指でツンと額をつついてきた。 「何て顔してんだ。オレはこの時代のツナが死んだなんて思っちゃいねーぞ」 「え、でも……オレ、この時代のオレは死んだってハッキリ言われたし……」 「オレも全部を知ってるわけじゃねーから、これは憶測っつーか希望なんだが、全てが終わってお前達が過去に戻った時、この時代のツナもここに戻ってくるようなそんな気がしてるんだ。だからオレの事は大丈夫。またツナに会えるって信じてる」 「ディーノさん……」 真っ直ぐな眼差しで笑うディーノを見ていると、本当にそうなるような気がして気力が満ちていくのを感じる。 「そう、ですよね……きっと会えます! だって、オレがディーノさんを置いていなくなるなんて、考えられないです。何があっても生きて、ディーノさんとずっと一緒に居たいって思うだろうから……」 「……あんがとな、ツナ」 「え?」 ディーノは小さく呟くと、どこか甘えるように抱きついてきた。 ディーノの全部を受け止めたくて、自分もうんと手を伸ばしてめいっぱいその体を抱き締める。 「そう思ってはいても、この時代のツナが居なくなったのも事実だし、ちょっと不安になってた。でも、お前の口からそう言ってもらえてすっげー安心した。だから、あんがとな」 言いながら微笑むディーノの顔からは翳りが消えていて、それが嬉しくて自分も笑みを浮かべた。 「ツナ、愛してるぜ。いつの時代も、何年経っても……」 「オレも……この気持ちは変わりません。ずっとずっと、ディーノさんの事大好きです」 互いを包むように抱き合い、瞳を合わせたままどちらからともなく口付ける。 「メシの時間までまだ少しあるから、もうちょっとだけくっついてようか」 「はい……」 額や頬に軽いキスを受け、自分からも同じようにキスを返すとディーノの胸に顔を埋める。 どんなに時を経ても変わらないままの優しい温もりにホッとするのを感じながら、しばしの微睡みに身を委ねた。 |
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