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* チョコラータ・カルダ *
ロマーリオ×子ディノ(バレンタインネタ)

「ただいまー」
まだまだ幼いキャバッローネのボス−ディーノが学校から息を切らせて帰ってきた。
ロマーリオはエスプレッソカップをソーサーに戻し、ディーノに視線を向けて微笑む。
「お帰り。寒かっただろ」
「うん、こういう日はチョコラータ・カルダが飲みたいな。なー、ロマーリオ。作ってくれよ」
「オレが!? コーヒーなら美味いの淹れられるけどよ、チョコラータ・カルダなんて作った事ねぇぞ。厨房のヤツに頼んだ方がいいんじゃねぇか?」
「やだ! オレはロマーリオの作ったチョコラータ・カルダが飲みてーの!!」
「作り方は一応知ってるけどよ、美味く作れる自信はねーぞ」
「それでもいーよ。ロマーリオのがいいんだ。なー、ダメ?」
捨てられた仔犬のような顔でじっと見つめられ、それ以上何も言えなくなってしまう。
ロマーリオは「しょうがねぇな」と言いつつ立ち上がると、泣きそうになっているディーノの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「今作ってくるから座って待ってな。美味く作れなくても文句言うなよ?」
「お前こそ、厨房に誰か居ても代わりに作ってもらったりすんなよ。オレはお前のが飲みたいんだからな! ちゃんとここで待ってっから」
ロマーリオに頭を撫でられ、顔を上げてニッと笑うと、ロマーリオが座っていた場所の向かい側の椅子に腰を下ろした。

「コーヒー用のパンナがねーな…仕方ねぇ、それも作るか」
厨房に入ると誰もおらず、まずは材料を揃えようと冷蔵庫を覗いたが、いつも用意してある泡立て済みの生クリームが切れていた。
ミルクを温めている間に新しい生クリームのパックを出してきてボウルに入れ、バニラシュガーも入れて固く泡立てる。
それからディーノが愛用しているカップに、溶かしたチョコレートを自分が記憶しているレシピよりも少し多めに入れた。
ちょうどいいタイミングで温まったミルクをカプチーノクリーマーでふんわりとしたミルクフォームにし、チョコが入ったカップにゆっくりと注ぐ。
最後に先程泡立てたばかりの生クリームを、こちらも甘いものが好きなディーノのために多めに乗せてココアパウダーを振って仕上げる。
「初めてにしちゃ上出来か?」
ロマーリオは出来上がりを見て満足げに微笑むと、皿に盛ったナッツのクッキーと一緒にトレイに乗せ、部屋に戻った。

「待たせたな…こんなんでいいか?」
一人で退屈そうに待っていたディーノの前に出来たてのチョコラータ・カルダとクッキーの皿を置き、クッキーを一つつまんでから椅子に腰を下ろした。
「いいに決まってんだろ! すっげー美味そう。あんがとな、ロマーリオ」
ディーノはガバッと顔を上げてスプーンを手に取り、上に乗っている生クリームをちょこっと掬って口に入れる。
本当に美味しそうに、幸せそうな笑顔でいるディーノを見て、ロマーリオは赤くなった顔を隠すように、冷めてしまったエスプレッソを口に運んだ。
「寒い日はやっぱチョコラータ・カルダだよな。体も心もぽかぽかになるし」
「ホントに甘いもんが好きなんだな。エスプレッソ飲めないもんな」
「う…いいだろ、別に。カフェラッテなら飲めるもん」
ロマーリオに笑われて、ディーノは頬を膨らましながらもカップに口をつける。
いつもはカフェラッテを飲んでいるのに、今日に限ってチョコラータ・カルダを、しかも自分が作ったものに拘った理由はなんだろう。
ふと疑問に思ったが、子供の頃は自分も寒い日に甘い物が欲しくなったのを思い出し、カップに残ったエスプレッソを口に運びながら、美味しそうにチョコラータ・カルダを飲むディーノを優しげな瞳で見つめていた。
「口にあったなら何よりだ。それより、宿題あんなら早めに済ませとけよ」
「ロマーリオまでリボーンと同じ事言うなよー。それにさっきから子供扱いして…まぁ、宿題は出てるから言われなくてもやるけど!」
拗ねたような顔でカップの中身を飲み干すと、ディーノは立ち上がってそのままドアの方へ向かった。
「それじゃ夕飯の準備出来たら呼びに行くからな」
少しからかいすぎたか、と反省していると、後ろからシャツをくいくいと引っ張られ反射的に振り向く。
「!?」
振り向いた瞬間、目の前にディーノのアップがあり、僅かだが甘い味を感じる。
唇に触れた柔らかい感触はすぐに消えてしまい、ディーノが顔を真っ赤にして俯いている。
「あの…えと…チョコラータ・カルダ作ってくれてあんがとな。それからこれ!」
ディーノは口をパクパクさせているロマーリオの手の平に小物入れのような物をそっと乗せ、「オレ、部屋で宿題するから!」と慌てたように出て行った。
ディーノが部屋を出て行った後もロマーリオはしばらくアワアワしていたが、ひとまず気持ちを落ち着けて手の平に乗せられた物を見ると、それは赤い色の正方形のクリスタルパッケージだった。
「これは…」
中には金色の包み紙の、ケースより一回り小さい正方形のお菓子−ディーノがよく好んで食べているチョコレートウエハースが入っていた。
やっとディーノがチョコラータ・カルダを強請った理由に気付き、ロマーリオは手の平の上の、ディーノの想いが込められたチョコレートのケースと同じくらい真っ赤になった。