カチ、コチ、と柱時計が時を刻む音が今日はやけに耳につく。 スクアーロは机に顔を突っ伏したまま溜息を一つつくと、僅かに顔を上げ視線を柱時計へと向けた。 「ヴお゛ぉい…まだ五分しか経ってねぇのかよ。もう一時間ぐれぇ経ったような気がしたのになぁ…」 柱時計の針を見つめたまま、今度は深く長い溜息を吐く。 一時間程前からこの繰り返しだった。 ボンゴレ最強と謳われる独立暗殺部隊ヴァリアーからのスカウトに自分が出した入隊の条件──ヴァリアーの現ボスである剣帝テュールとの決闘。 その申し出をテュールが受けるか否か、結果をボンゴレ9代目の息子でいずれその後を継ぐだろうと言われているザンザスが、今日直々に伝えに来ることになっているのだ。 約束の時間が近付くにつれ時計の針の進みが遅く感じられ、期待と苛立ちと、もう一つ別の感情が募っていく。 「ったくよぉ…遠足前のガキか、オレは」 自嘲するように吐き捨てると、スクアーロは再び机に顔を伏せた。 「あのテュールと戦えるかもしれねぇって期待ももちろんあるけどよぉ」 もう何度目かの溜息と共に、ザンザスの顔が脳裏に浮かび上がる。 その瞬間、ポッと頬が熱く火照った。 「アイツと会える喜びの方が強いなんてな…オレ、何でこんなになっちまったんだぁ?」 自問するが、もう答えは分かりきっている。 自分はザンザスに、恋をしているから。 ボンゴレやヴァリアーの噂は以前から耳にしていたが、特に興味を惹かれたのが次期後継者の最有力候補・ザンザスだった。 自分とそう年の変わらないその男がどんな奴なのかこの目で直接拝んでやろうと、スカウトを受けた時に招かれたボンゴレ主催のパーティーに勇んで出掛け、その溢れんばかりの怒気に身も心も釘付けにされてしまった。 一目で敵わないと悟り、今までの自分がどれだけ傲慢だったか思い知らされた。 『地上最強の剣士になって、この男についていきたい』 これまで剣を極めるためにただひたすら剣術家との戦いを繰り返してきた自分に、誰かに付き従いたいという今までになかった感情が生まれた。 パーティー以来その姿を追い続け、気が付くとザンザスの持つ『怒り』だけではなく、彼自身にも惹かれていた。 恋だの愛だのなんてくだらない。 そんなもの、自分には不要だと思っていたのに。 ザンザスと出会ってからの急激な心境の変化に、自分でも戸惑っていた。 「オレにもこんな感情があったなんて、予想外だぜぇ」 恋愛なんて剣士の自分には枷にしかならないと悩んだこともあった。 だがザンザスを想うと、自分もそれに相応しい剣士にならねばと修行にもいつも以上に気合いが入ったし、ただ殺伐と戦いを繰り返していた頃よりもザンザスと出会ってからの方がずっと心身共に満ち足りた日々を過ごしていると感じられた。 誰かを愛したり、誰かの為に強くなる。 そんな生き方も悪くない。 今はそう思えるようになっていた。 コン、コン。 「!?」 不意にノック音がし、ガバッと顔を上げる。 愛する人を想っていると時間が過ぎるのも早いもので、時計の針は約束の時間の五分前を指していた。 慌てて立ち上がるが、ノブに手を掛ける前にガチャッと音を立ててドアが開かれる。 そこには黒のスーツを身に纏ったザンザスが一人、立っていた。 「何だ、いるならさっさと開けやがれカスが」 「す、すまねぇ…それより一人で来たのかぁ?」 お前のことを考えてぼんやりしていた、などとは言えず、赤く染まった頬を隠すように俯き加減で言葉を漏らす。 「たかが通達にゾロゾロ何人も連れてくるワケねーだろ。こんな所にオレを狙おうとするドカスがいるとも思えねーしな。寮の玄関にたむろってたカス共はオレの顔見た途端蜘蛛の子散らしたように逃げていきやがった」 つまらん、といった風に鼻で笑うと、ザンザスはスクアーロに試すような視線を向けてくる。 「オレに刃向かおうなんて考えるドカスはてめーくらいだな」 「いや、オレはお前についていくと決めたからな。仇なそうなんて毛の先程も考えちゃいねぇぞぉ。それに戦わなくても分かる。お前には勝てねぇ。だがな、お前の次に強いと自負出来るようになってみせるぞぉ!!」 「フン…そうか」 熱く叫ぶスクアーロとは対照的にザンザスの表情は冷静だったが、どこか満足そうにも見えた。 「なら、まずは幹部の連中に証明してみせろ」 「!? も、もしかして…」 「てめーの希望通り、テュールとの決闘が決まった。一週間後だ」 「よお゛ぉし!」 ザンザスの言葉を聞いて、スクアーロは歓喜の叫びと共に拳をグッと握る。 「あの剣帝と戦えるなんて夢みたいだぜぇ! ありがとうな、ザンザス!!」 「…テュールと戦えるのがそんなに嬉しいか」 そのあまりの喜び様に、ザンザスは少々呆れ気味に溜息を吐いてポツリと呟く。 「嬉しいに決まってんだろぉ! 剣帝と言や剣の道を目指す者の目標となる存在だからなぁ」 「幹部…いや、あいつらだけじゃねぇ。周りの連中はみんな、数年後なら互角くらいにはなってるかもしれねーが、今のてめーじゃ勝算はないに等しいと言っている。わざわざ若い芽を摘むこともないと決闘に反対する奴もいた。それでもやるのか?」 「当たり前だぁ!! オレにとって剣帝を倒すことは最終地点じゃねぇ。お前についていくためにまずクリアするべき眼前の目標に過ぎねぇんだ。それくらい出来なきゃお前には釣り合わねぇからなぁ!」 「オレについていくための手始めにテュールを倒すと?」 「あぁ、そうだぁ!」 「………」 無言のまま、力強く頷くスクアーロを真っ直ぐに見据える。 静かにこちらを見返してくる翳りのない瞳。 そこにはスクアーロの意志を示すように強い光が宿っていた。 「フン、大きく出たな。だが悪くねぇ」 ザンザスはどこか機嫌よさげに口の端を吊り上げると、言葉を続けた。 「そこまで言うなら遺言くらいはオレが聞いておいてやる」 「ヴお゛ぉい!! ふざけるなよ、ザンザス。お前もオレが負けるとでも思ってんのかぁ!?」 遺言という言葉にプライドを傷つけられたのか、スクアーロはただでさえ大きな声を一層張り上げて怒鳴った。 「剣のことはよく分からねぇが、経験や実力はテュールの方が上だ」 「ヴ…」 常人なら顔を顰め耳を塞ぐ程の大声にも物ともせず、淡々と図星を指してくるザンザスにスクアーロは何も言えなくなり、悔しげに唇を噛み締めた。 「まぁ、勝負なんてやってみなけりゃ分からねぇけどな。このオレについていくために無謀な勝負に挑もうとしているお前に、オレなりに敬意を表したつもりだが?」 「気持ちはありがてぇが、遺言なんてねぇぞぉ! オレは必ず剣帝に勝ってみせるからなぁ!!」 「大した自信だな…なら、遺言の代わりに何か一つ、望みを聞いてやる」 「望みぃ!?」 ザンザスの口から出た意外な言葉に耳を疑う。 それまでの威勢は一瞬にして消え、驚きのあまり固まっていると、ザンザスはふんぞり返るように腕組みしてもう一度口を開いた。 「遺言を聞く代わりに、お前に施ししてやる」 「マ、マジかぁ!? お前がそんなこと言うなんて、一体どうしちまったんだ?」 聞き違いではなかった。 だがザンザスがこんなことを言うなんてすぐには信じられず、思わずポカンとしてしまう。 そんな唖然とした表情すら、ザンザスは楽しんでいるかのようだった。 「オレは今珍しく気分がいいんだ。気が変わらねぇうちに言ってみろ。望みはねぇのか?」 「望み…」 そう問われ、スクアーロは開いたままになっていた口をそっと閉じ、しばし考える。 「剣帝と戦いてぇって望みは叶えてもらったしなぁ。剣帝を倒した後のことはオレが自分の手で叶えなきゃ意味がねぇしよぉ」 「なら、テュールとの決闘の前にしておきたいことは?」 長らく考え込んでも答えが出ないスクアーロに苛ついてきたのか、ザンザスは少し不機嫌さを含んだ声で急かしてきた。 「しておきたいことかぁ?」 「あぁ。決闘の日まで一週間しかねーから世界一周旅行とか時間的に無理なことは叶えてやれねーが、行っておきたい場所とか、会っておきたい奴とか、そういうのはねーのか」 「剣の修行であちこち飛び回ってるからよ、行ってみたい場所は特にねぇなぁ。オヤジもオフクロもオレが小せぇ頃に死んじまって顔も覚えちゃいねぇ。故郷の町にも未練ねぇしなぁ。ダチなんてモンもいねぇ」 剣帝テュールと戦いたいという望みは既に確約されているし、一番会いたいと思う相手は今目の前にいる。 それ以外の望みと聞かれると、これというものが思い浮かばない。 例え気まぐれだったとしてもせっかくの好意を無にしてはいけないと必死に頭を振り絞るスクアーロを前にだんだん苛立ちが募ってきたのか、ザンザスは足をカツカツ鳴らし始めた。 いつもならこの時点でキレていてもおかしくなかったが、そうならないのはスクアーロが自分に釣り合うようにと、テュールと戦い必ず勝つと言ったことがよほど気に入ったのだろう。 スクアーロはそんなザンザスの気持ちに全く気付いていないようだったが。 「てめーには例えのスケールがデカすぎたか…もっと身近な望みすらねーのか?」 「身近な望み?」 「そうだ。例えばだな…飽きる程たらふく食ってみたいモンとか、今は手が出ねーが死ぬまでに一度は食ってみたいモンとか、そんなんでもいいぞ」 「食いモンかぁ…やっぱりお前もそういう身近な望みってあんのか?」 「オレか? オレはいつも食いたいモンは好きなだけ食ってるからな…そうだな、この世に存在すんならマンモス肉のステーキを食ってみてぇ」 「マンモスかぁ!! さすがザンザス、スケールが違うぜぇ。やっぱりお前は凄ぇぞぉ!!」 「たりめーだ。そこらへんのカス共と一緒にすんな」 そう言いつつも多少機嫌はよくなったようで、ザンザスは鼻でフフンと笑いながらまた偉そうにふんぞり返った。 (あ゛…そういやオレ、あんまり食いモンに執着ねぇんだよなぁ…) 身近な望みならと再び考えるが、すぐに行き詰まってしまった。 (好物はあるけど一度に量食えねぇし、たらふく食いたいとも思わねぇしなぁ。でも、こんなこと言ったらまたザンザスの機嫌損ねちまうし…) 困ったような申し訳ないような表情になり、何か言い辛そうに口をモゴモゴ動かしているスクアーロを見て、ザンザスはその意味を取り違えたのかニヤリといやらしげな笑みを浮かべた。 「食ってみてーモンは食いモンとは限らねーよなぁ」 「え゛?」 「その調子じゃ、てめー女知らねーだろ」 「な゛っ…」 言葉の意味を理解したのか、スクアーロの顔がボンッと一気に朱に染まる。 「やっぱり図星か? それが望みなら世話してやってもいいぞ。飯でも女でも、どっちでも最高のモノを用意してやる」 「な゛…な、な…」 「んー?」 「ヴお゛ぉい!! てめぇ何言ってやがる!! 飯はともかく、お…女って何だぁ!!」 「高級娼婦の一人や二人、簡単に用意出来るっつってんだよ」 スクアーロの初々しい反応が面白いのか、ザンザスは更にニヤけ、からかうように言い放つ。 その言葉に、それまで真っ赤だったスクアーロの顔が悲しみとショックに満ちたものに変わった。 「何だ? 高級娼婦じゃ気後れするか?」 「………んのかよぉ」 「ん?」 「お前はそういうの、やっぱり…慣れてんのか?」 スクアーロの言葉にザンザスの眉がピク、と動く。 (や、やべぇ!) 胸の内の言葉をついポロリと零してしまったが、ニヤついた笑みを浮かべていたザンザスがスッと真顔になるのを目にして我に返ると、スクアーロは慌てて顔を伏せた。 (何だよこれ…まるでヤキモチじゃねぇか…) 自分は確かにザンザスに惚れているが、男女としての関係を持ちたいとか、愛人や恋人になりたいなんて考えたこともなかった。 ただついていければいい、そう思っていたはずなのに。 ザンザスも夜な夜な高級娼婦を相手にしているのかと思った瞬間、頭の中が真っ白になってしまった。 「何人か相手してやったことはあるが、どいつもこいつもつまらねー女ばかりだった。時間の無駄だと分かってからはヤッてねーな」 「そうか…」 夜な夜なと言うほどではないようだが、やはり女を抱いたことがあるのかと思うと胸の奥がズキンと痛む。 (いずれボンゴレのボスになる男だぁ。娼婦なんか相手にしなくても、言い寄ってくる女も多いんだろうなぁ…) ふと、ザンザスの手に抱かれる女が羨ましいと、そんな思いが頭を過ぎった。 やはり自分も女だったかと痛感させられ、こんなことで傷付いたり動揺してしまう自分に呆れて溜息が出る。 男に抱かれるなんて、以前は嫌悪感しか感じていなかったのに。 今はザンザスになら寧ろ強引に組み敷かれ犯されたいとまで思ってしまう。 (一度だけでいい、オレも…) 自分の中の『女』を認めてしまった瞬間、今まで抑えつけていた想いがどんどん膨らんでいき、それが言葉となって口から零れた。 「本当に…何でもいいのか?」 「ん? 決まったのか? いいぞ、言ってみろ」 「ヴ…い、言うぞぉ! オレを…」 「てめーを?」 「………や、やっぱり何でもねぇ! 今のは忘れろぉ!!」 スクアーロはしばらく口をパクパクさせていたが、顔を真っ赤にして叫ぶと再び顔を伏せてしまった。 (ザンザス相手に抱いてくれ、なんて言えるかぁ! 何考えてんだオレは…馬鹿にも程があるぞぉ!!) 感情に任せて突っ走ったはいいが、ザンザスの顔を見ていたら急に冷静になってきて、言葉が出てこなくなってしまった。 一生胸の内に秘めておくべきことなのに、自分は何をやっているのだろう。 危うく大それた望みを口にするところだったと後悔していると、いきなりガシッと頭を掴まれ無理矢理顔を上げさせられた。 「い゛っ!?」 額と額がくっつきそうなくらい間近にザンザスの顔があって、これ以上ないくらい顔が赤くなる。 ザンザスはスクアーロとは別の意味で顔を真っ赤にし、ピクピクとこめかみを引き攣らせていた。 「ふざけんな! ここまで引っ張っといて何だそれは!!」 「わ、悪かった…望みは叶えてくれなくて構わねぇから、忘れてくれ」 「言いかけて止められたら気になるじゃねーか! 言え!!」 「言えるかぁ!!」 スクアーロの必死の叫びにザンザスはこめかみだけでなく頬も引き攣らせると、地を這うような低い声で最終通告を突きつけた。 「言わなきゃテュールとの決闘もヴァリアー入隊の話も無しだ」 「な゛っ…てめぇ卑怯だぞぉ!!」 絶対に逆らえない切り札を出され、今度はスクアーロがこめかみを痙攣させながら怒鳴り声を上げる。 「卑怯もクソもあるか。てめーがヴァリアーに入隊出来なくてもオレは何も困らねーんだよ」 「ヴ…わ、分かった、言うからよぉ…だから、いい加減手ぇ離せぇ!」 そう言われてしまったら何も反論が出来ない。 仕方なく従うが、こんな近距離に顔がある状態ではさすがに言えないと、ザンザスを押し退けるようにその厚い胸板を押した。 「やっと言う気になったか、カスが」 舌打ちと共にザンザスの手が頭から離され、スクアーロはパッと飛び退き距離を取る。 (クソ御曹司め…いつか絶対オレがいなきゃ困ると思わせてやるぞぉ!) 心の中で悪態をつくと、一度目を閉じ気持ちを落ち着かせてからザンザスをキッと見据えた。 「よし、言うぞぉ。聞いたらすぐ忘れろよぉ!」 「四の五のうるせぇよ。さっさと言え」 スクアーロは躊躇うようにグッと唇を噛み締めた後、覚悟を決めてゆっくりと口を開く。 「………てくれ」 「あ? 聞こえねーよ」 「オッ、オレを…抱いてくれって言ったんだぁ!!」 ヤケクソになって叫んだ後恐る恐る視線をザンザスへと向けると、目を見開いたまま固まっていた。 (そりゃ驚くだろうよぉ…あ゛ぁもう、オレの大馬鹿ぁ! 穴があったら今すぐ飛び込みたいぜぇ…) スクアーロもそれ以上何も言えなくなり、ギュッと口を噤んだ。 二人の間にしばし沈黙が漂う。 (沈黙が…重いぜぇ…) 何と切り出そうかと悩んでいると、表情を戻したザンザスの方から先に口を開いてきた。 「ワリーな。生憎オレは男のケツを掘る趣味はねぇ。男に抱かれるのが望みなら男娼を…」 「ヴお゛ぉい! 男なら誰でもいいってワケじゃねぇぞぉ!! 他の誰でもない、てめぇに抱かれたいんだ。それにオレは女だぁ!!」 「!?」 元に戻ったばかりのザンザスの表情が再び驚愕に硬直する。 「な、何だよぉその顔…そんなに驚くことねぇだろぉ」 いくら女だということを隠していたとはいえ、目を見開くだけでなく口までパカンと開けた、普段の威厳の欠片もない顔をされるとさすがに少し傷ついてしまった。 しょんぼりした言葉を耳にしてフリーズしていた思考が戻ってきたのか、ザンザスはハッと我に返ると軽く頭を振り、スクアーロの頭の先から足元まで何度も視線を往復させる。 「女?」 ザンザスからの問いに無言でコクッと頷くと、スクアーロはばつが悪そうに頭を掻いた。 「女だって事、黙ってて悪かったなぁ」 「どういうことだ? 学生名簿のデータは確かに男になってたぞ。何で男として入学した?」 「女だとナメてかかられることが多くてな。勝負で手を抜かれるほど屈辱的なことはねぇ。だから故郷を出てからは男として生きてきたんだ」 「そ、そうか…」 ザンザスは動揺を隠せぬ声で呟き、こめかみを指で押さえる。 「ヴァリアーには女性隊員もいると聞いたぞぉ。オレが女でも問題ねぇはずだ」 「あぁ、性別は関係ねぇ。ヴァリアーにおいて重要なのは強さだ。問題はそこじゃねぇ」 「オレが女だと信じられねぇって言うなら、い、今ここで…証明してやってもいいんだぞぉ!」 「待て! 待て待て待て!! いきなり脱ごうとしてんじゃねーよ、ドカスが!」 思い余って自らシャツのボタンに手を掛けたスクアーロを止めると、ザンザスは頭を抱えてはぁぁと深くため息をついた。 「すまねぇ…」 スクアーロはシュンとしてシャツから手を離すと、ぽつぽつと言葉を続ける。 「あ、あのな…オレは別にお前の愛人や恋人になりてぇってワケじゃねぇんだ。ただ一度、お前に抱かれてみてぇって、そう思って…嫌なら無理しなくていいぞぉ。女には不自由してねぇみたいだし、こんな男みてぇな女…しかも処女なんて面倒くさいだろうしな」 「カスが。誰が嫌だと言った」 「え?」 自分が女だということを告げてもこんな望みは断られると思っていたのに、耳を疑うような言葉がザンザスの口から飛び出し、半信半疑の面持ちで顔を上げた。 「それがてめーの望みなんだろ? 分かった、抱いてやる。だがな、今の今まで男だと思ってたから気分的に今すぐは無理だ。この後会食の予定も入ってるしな。明後日の夜なら空いてる。ホテルのスイートでも用意するか?」 「……………」 ザンザスの言葉を聞いても、まだ信じられなかった。 あまりのことに言葉が出てこない。 「ホテルでいいかって聞いてんだよ。てめーは人一倍声がでけぇし、ここじゃいろいろマズいだろ」 呆けたままでいると焦れたように返事を求められ、震える口を開いて何とか言葉を絞り出す。 「あ…そ、そういうのはガラじゃねぇし…出来ればお前の部屋がいい。声とか、あんまり出さねぇようにするからよぉ」 「ホテルのスイートよりオレの部屋がいいか…物好きだな。なら明後日の夜迎えを寄越すから、屋敷に来い。テュールとの決闘のことで呼んだと話を通しておく」 「わ、分かった。明後日だな。それまでにもし気が変わったら、いつでも断ってくれて構わねぇからな」 「はぁ? オレのことよりてめーの心配したらどうだ? 優しく抱いてもらえるなんて期待すんじゃねーぞ!」 もう用は済んだと言わんばかりに背を向けるザンザスに慌てて声をかけるが、ザンザスは振り向きもせずそのまま部屋を出て行ってしまった。 バタン、とドアが閉まる音が聞こえると同時に、スクアーロはその場にへたり込む。 (マ、マジかよぉ…本当に、ザンザスがオレを…) 先程までのやり取りを反芻していると、急に恥ずかしさがぶり返してくる。 スクアーロはそのまましばらく口から魂が抜け出たように放心していた。 「失礼致します、ザンザス様。スペルビ・スクアーロ様がお見えになりました」 ベッドに寝転がってぼんやりしていると、ノック音と共にドア越しにメイドの声が聞こえてくる。 「通せ」 「かしこまりました。失礼致します」 遠ざかっていく足音を聞きながらゆっくり体を起こすと、コキコキと首を左右に動かしてから壁の時計を見つめる。 「もうそんな時間か…」 ぽつりと呟き、軽く息をついた。 しばらくして、先程のメイドがスクアーロを連れて再び部屋の前まで戻ってくる。 「失礼致します。スペルビ・スクアーロ様をお連れしました」 「入れ」 「かしこまりました。スクアーロ様、どうぞ」 ドアが開かれると、男物の黒のスーツ姿のスクアーロがやや緊張した面持ちで立っていた。 「よ、よぉ、ザンザス…お招き、ありがとうな」 メイドに促され、スクアーロは躊躇いがちに部屋の中へと足を踏み入れてくる。 いつもの傲慢な態度は見る影もなくなっているスクアーロを一瞥すると、ザンザスはドアの前で控えているメイドに声をかけた。 「もういい、下がれ。オレが呼ぶまで誰も部屋に近付けるな」 「かしこまりました。失礼致します」 メイドは深々と頭を下げると、静かにドアを閉めてその場を立ち去った。 「てっきり女の格好で来るかと思ったが…」 ザンザスはスクアーロに視線を戻すと、メイドの気配が完全に消えてから口を開く。 「本当はちゃんと女の格好で来ようかと思ったんだけどなぁ、せめて剣帝との決闘が終わるまではお前以外には女って知られたくねぇんだ。戦いに男も女もねぇ。相手が女だからと剣帝が手加減するとは思えねぇが、念の為だ」 「そうか…どうせ脱いじまうんだから服なんてどうでもいいけどな」 「………」 ザンザスの言葉に、今日ここに来た目的を改めて確認させられたようで頬が赤く染まる。 すべきことは分かっているが何から始めたらいいのかは分からず、救いを求めるようにザンザスを見つめた。 「…シャワー浴びるか?」 「そっ…それは済ませてきた…」 「用意周到だな。まぁ、時間が時間だし、オレも風呂は済ませたがな」 やる気満々だとからかわれたようで頬が熱を帯びていく。 いつもならここで考えるよりも先に反論してしまうのだが、今はこれからのことを思うといっぱいいっぱいになってしまってそんな余裕はなかった。 ザンザスもどう切り出そうか考えあぐねているのか、しばし沈黙が続く。 まるで死刑宣告を待つような重苦しい気分でいると、ようやくザンザスがその口を開いた。 「オレはまどろっこしいのは嫌いだ。脱げ」 「!?」 ムードなんてはなから求めていなかったが、いきなりの直球な要求に戸惑ってしまう。 「どうした? まさか優しく脱がしてくれるなんて期待しちゃいねーだろうな」 「い、いや、してねぇけど…」 「てめーが本当に女か、見せてみろ」 「……わ、分かった」 よくよく考えてみれば、求めたのは自分でザンザスはそれに応じてくれただけだ。 自分から言い出したのにグズグズしているのは応じてくれたザンザスに失礼だと思い直し、深呼吸を一つしてからネクタイに手を掛ける。 しゅる、と抜き取ったネクタイを床に投げ捨て、間を置かずにスーツの上着も脱ぎ捨てた。 少しでも躊躇ったら手が止まってしまいそうな気がして、何も考えないようにしながらひたすら服を脱ぎ捨てていく。 「色気のねぇ下着だな」 スクアーロが黒のスポーツブラとショーツだけを残した状態になると、それまで黙って見つめていたザンザスがボソッと一言呟いた。 「別に色気がなくたっていいだろぉ!? この方が動きやすいし、色気より機能性だ!」 「お前らしいな…分かったから、その色気のねぇ下着もとっとと脱ぎやがれ」 「な゛っ…し、下着も自分でかぁ!?」 「そうだ。この前は証明してやってもいいっつって自分から脱ごうとしたじゃねーか。今は出来ねーのかよ」 「…脱ぎゃいいんだろ、脱ぎゃ!」 下着くらいもっと女らしいものを穿いてくればよかったかと少しでも思った自分が馬鹿だった。 ザンザスの態度にむくれながらもスクアーロは言われた通りに下着に手を掛け、ブラもショーツも一気に脱ぎ捨てる。 「ぬ、脱いだぜ…」 腕をだらんと下げ、何一つ隠すことなくザンザスの前にその全てを曝け出す。 (あぁ…今オレ、ザンザスに裸見られてる…視線で肌撫でられてるみてぇだぁ…) 目を合わせるのはさすがに恥ずかしくて顔を背けていたのだが、全身をじっくりと見つめるザンザスの視線を肌に感じ取り、ゾクリと背筋が粟立った。 「本当に女だったんだな」 「!? あ、あんまり見るなぁ!!」 ザンザスの言葉にある一部分を集中して見られていると気付き、慌てて無毛の一帯を両手で隠す。 スクアーロは生まれつき体毛が薄く、アンダーヘアにいたっては全くの無毛で、そこは生まれたての赤ん坊のようにツルツルだった。 そんな自分の体質に密かにコンプレックスを抱いていたし、そこだけをじっくり見られるのは恥ずかしくて堪らなかった。 「隠してんじゃねーよ。まぁいい、後で奥までじっくり見てやる」 「あ…あ゛ぁっ…」 不意に目が合い、下腹に直接響くような艶を含んだ低音で囁かれ、肌に視線を感じた時とは比べ物にならないような甘い疼きが体の奥から全身へと駆け巡る。 頬を上気させ全身を震わすスクアーロを見て満足げに唇を歪めると、ザンザスは組んでいた足を解いた。 「いいか、オレは処女相手でも優しくなんてしねぇ。覚悟がねーなら今すぐ服着てとっとと帰れ」 「覚悟ならとっくに出来てるぞぉ!」 「そうか…なら、てめーの口からもう一度聞かせろ」 「え?」 「言ってみろよ、どうして欲しいのか」 「っ!!」 囁き声にまた体の奥が熱く疼き、腰が砕けそうになる。 ふらつく足を何とか踏ん張り、上擦った声で自分の心からの望みをザンザスに告げた。 「……オレを、抱いてくれ。オ、オレの…処女、お前の手で…散らしてくれ」 言い切った途端気が抜けたのか、足の力がカクンと抜ける。 その瞬間強く腕を引かれ、フワッと体が浮いたかと思うと腿を跨ぐようにザンザスの上に座らされていた。 「ザンザス…」 「望み通り、オレの手で散らしてやる」 スッと顎に手を掛けられ、軽く上を向かされる。 本当に自分はこれからザンザスに抱かれるのだと、そう思うと身も心も喜びに打ち震えた。 近付いてくるザンザスの顔にキスを予感し、ギュッと目と口を閉じる。 すぐに唇に柔らかい感触を受け、口付けられたのが分かった。 (ザンザスと…あのザンザスとキスしてる! つーか意外と唇柔らけぇ…) 今自分の身に起きていることがどうにも信じられなくて、でも目を開けて確かめる勇気もなく、固く目と口を閉じたままザンザスのキスを受ける。 ややあって唇が離れ、そーっと目を開けるとザンザスの少々困惑したような顔が映った。 「…もしかして、キスも初めてか?」 「あぁ、そういうこととは一切無縁だったからよぉ」 それを聞いて、ザンザスはやれやれというように溜息をつく。 「目は閉じてていいから、口を少し開けろ」 「分かった…こうかぁ?」 「!?」 言われるまま上向き加減に目を閉じて唇を半開きにしているスクアーロを見て、ザンザスの胸が大きく跳ねた。 (何だ、今の…オレがこんな男みてーな女に…) あり得ねぇ、そう思いながらスクアーロの後頭部に手をやり先程よりも深く口付ける。 口内に舌を滑り込ませると、細い体が過剰なまでにビクンと震えた。 (今まで手馴れた女共ばかり相手にしてきたからな…コイツのウブな反応が珍しいだけだ。そうに違いねぇ) まるで自分に言い聞かせるように、心の中で何度も繰り返しながら舌で舌を絡め取り、強弱をつけて吸い上げる。 「ん゛っ、ん゛ん〜」 スクアーロはどうしていいか分からず、呻くような声を上げながらザンザスの舌の動きに翻弄されていた。 その初々しい反応をどこか楽しみながら舌で口内を掻き回すと、次第に息苦しくなってきたのかスクアーロが腕の中でもがき始める。 「ん゛〜! んん゛〜!! ハッ、アァ…ん゛んんん〜!」 (鼻で息すりゃいいのに、馬鹿じゃね?) 逃れようとする頭をガッシリ抱え込み、スクアーロの限界近くまでたっぷりと口内を貪ってからようやく解放した。 「あ゛っ…ハァッ…」 スクアーロはそのままクテッとザンザスの胸に倒れ込み、大きく肩で息をしながら新鮮な空気を肺に取り込む。 その唇の端からは、キスの激しさを現すかのように光る細い糸がつぅと垂れていた。 「カスが、キスだけでへばってんじゃねーぞ」 ザンザスはスクアーロの呼吸が整うのを待たずにその体をひょいと持ち上げ、ベッドの上に放り投げる。 「へ、へばってなんかっ…」 「息荒くして何言ってやがる。本当にこっちはからっきしなんだな」 「ヴぅ…」 覆い被さるように組み敷くと、それまでゼェゼェいいながらも歯向かっていたスクアーロは人が変わったように大人しくなり、悔しげに唇を噛み締めそっぽを向いた。 その表情に、また胸が跳ねる。 (一体さっきから何なんだ…クソッ) 苛立たしげに内心で舌打ちすると、眼前の白い首筋に噛み付くように口付けた。 「ひゃう!」 八つ当たりするかのような乱暴なキスにも拘らず、スクアーロは声を上げ喉を反らす。 「あ゛っ…や、ぁあ…んっ…」 首筋に沿ってキスを落としていく度にピク、ピクと体を震わせ、露になった喉元をつつーと舐め上げると一際高い声を上げて反応した。 「も…やっ…何だよこれぇ…何で、こんな変な声っ…」 「ちったぁ女らしい声出せるじゃねーか」 「んなことっ…い、言うなぁ! ひぁ、あ゛ぁぁっ…う…ぅんっ…」 初めて聞く自分の嬌声がよほど恥ずかしいのか、スクアーロはこれ以上声を漏らさぬようにと片手で口を覆う。 「スクアーロ…」 今まで否定し続けていたが、必死に快楽に耐えるその姿を『可愛い』と、遂に意識してしまった。 (生意気で、傲慢で、男みてーな奴を可愛いなんて…本当にオレはどうかしちまったのか? いや、これは気の迷いだ。でなきゃオレがこんなカスを可愛いだなんて思うワケがねぇ!) 自分の中に生まれたあり得ない感情を振り払うようにガバッと体を起こすと、ザンザスはスクアーロのささやかな膨らみを鷲掴みにした。 「ん゛っ…」 「それにしても揉み応えのねぇ胸だな。これならブラいらねーだろ」 小さいながらもふにゅっとした感触が指に心地よい。 心の中ではそう思いつつも、スクアーロにはわざと正反対の言葉を投げつけた。 「う、うるせぇぞぉ! 胸なんて所詮脂肪の塊、邪魔なだけだぁ!!」 気にしていることを突かれ、スクアーロがいつもの調子で噛み付いてくる。 (そうだ…コイツはこうやって悪態ついてりゃいいんだよ。変にしおらしくされると調子狂っちまう) やはり気の迷いだったかと自分で自分を納得させると、まだ手をつけていない方の膨らみもやわやわと揉みしだいた。 「ぁあっ…」 「まぁ、胸がちっさくてもコッチがあるから問題ねーか」 「え……ひぅ、い゛っ…」 ニッと唇を笑みの形に吊り上げ、固くなり始めた胸の突起を親指でグリと押し潰すようにすると、スクアーロの口から小さな悲鳴のような声が漏れる。 「こういうことはサッパリでも体はしっかり反応してんな…こんなピンピンに勃たせやがって」 「ば、馬鹿…言うなぁっ…んぁ、あぁあっ」 そのまま指の腹でグリグリしたり、ピシッと弾くように刺激を与えると、突起はどんどん固さを増していった。 それに比例してスクアーロの声もまた艶を含んだものに変わっていく。 両手で左右両方の胸にたっぷり愛撫を施すと、今度はすっかり固く尖った突起を口に含んだ。 舌の上で転がすように舐め、スクアーロの悦楽の表情が濃くなり始めた頃を見計らってカリッと強めに歯を立てる。 「あ゛っ、あ…ん、ひっ…ぁぁっ…くっ…ハァ、あ…」 うんと感じさせて頭の中が蕩けてきたところで現実に引き戻す。 それを繰り返しているうちに、スクアーロは口を塞ぐのも忘れて嬌声を部屋中に響かすほどになっていた。 「胸はちっせぇが、乳首がこんだけ感じりゃ上等か」 「………ザンザスぅ」 「ん?」 独り言のように呟きながら左右の突起をコリコリ摘んでいると、それまでただ喘いでいただけのスクアーロの声が名を呼ぶ言葉に変わる。 指を動かしたままそちらを見やると、どこか淋しげな表情のスクアーロがこちらを見ていた。 「何だ」 その瞳が何か言いたげに見えて、手を止めて促す。 「…やっぱりお前は、おっぱいデカい女の方が好きなのかぁ?」 「別に」 くだらん、と切り捨てようかとも思ったが気まぐれで答えてみた。 「じゃあよぉ…好みの女のタイプとかあるか?」 「んなもんねーよ。惚れた奴が全てだ」 スクアーロの目を真っ直ぐ見つめて、はっきり言い放つ。 スクアーロはそれを聞いて一瞬目を見開いた後、まだ何か聞きたげな視線を投げかけてきていたが、気付かない振りをして立ち上がるとベッドから降りた。 「ザンザス?」 「オレも脱ぐ。ちょっと待ってろ」 背を向けたままそう言って、シャツに手を掛ける。 (惚れた奴が全てっつっても、別にコイツのことじゃねーし) 言い訳のように心の中で呟くと、ザンザスはシャツのボタンを外し始めた。 (…怒らせちまったか?) スクアーロはベッドに身を横たえたまま、服を脱ぐザンザスの後ろ姿に視線だけを向ける。 (好みの女のタイプとか、何血迷ったこと言ってんだオレは…) 気付かれないようにそっと吐いた溜息が衣擦れの音にかき消され、筋肉のついたがっしりとした背中が露わになった。 (オレが目指してんのはコイツの好み通りの女じゃなく、最強の剣士になってコイツについていくことなのに…) 常にその全身から発せられる、底知れぬ怒り。 その怒りに惚れてついていきたいと、ただそれだけを思っていたのに、ザンザスに触れられると自分の中の『女』が顔を出してきて思考を鈍らせる。 (今夜だけ…そう、今夜だけだ。オレが『女』になるのは。一度抱かれれば気も済むだろ…) でも、という言葉が頭を過ぎり、目を伏せ火照るその身を掻き抱く。 (キスして、胸弄られただけなのに、体中熱ぃ…) これが性的快感なのかと、カチャカチャとベルトを外す音を耳にしながらハァと熱を孕む息を吐いた。 (始めたばっかなのにこれじゃ、最後までいったらオレ、どうなっちまうんだろ…) 下半身にはまだ触れられてもいないのに、その中心部が一際熱く疼いて無意識に太股を擦り合わせる。 ココに触れられたら、ザンザスの熱い漲りを受け入れたら、自分が自分でなくなってしまいそうな気がした。 何かが変わってしまうかもしれないという不安と、それでもザンザスにこの身を捧げたいという二つの思いに心が揺れる。 身を抱く手を解いて、何かを求めるようにもう一度その背を見つめると、ザンザスは最後の一枚に手を掛け、それを脱ぎ捨てたところだった。 そのままこちらを振り向きそうな気配を感じ、慌てて顔を動かしザンザスを視界から外す。 「何そっぽ向いてんだ。てめーがずっとこっち見てたのは分かってんだよ」 ギシリとスプリングの軋む音がして、ザンザスがベッドに上がったのが分かった。 「み、見てねえぞぉ!」 シラを切り顔を背けたままでいると、シーツの沈む感覚が近付いてきて心臓が早鐘を打つ。 「シラ切る気か? まぁいい。こっち向け」 「え゛?」 「こっち向けっつったのが聞こえねーのか、カス。まどろっこしいのは嫌いだと言っただろう」 「ま、待てぇ…心の準備が…」 「こっち向けよ、ドカス」 「っ!!」 怒りを含んだ低い声に、また甘い疼きが全身を駆けた。 ザンザスの怒りを感じると何故か全身がビリビリ震え、逆らえなくなる。 強い雄には悦んで従う雌の本能なのだろうか。 羞恥も何もかもが一気に吹っ飛んで、ふらふらと上半身を起こすと、その声の命ずるままに顔を向けた。 初めて目にする、ザンザスの生まれたままの姿。 野生を剥き出しにしたような、雄臭さ漂うその肉体にうっとりと溜息を漏らす。 厚い胸板から割れた腹筋にかけての逞しいボディラインに見惚れるが、最も目を惹かれたのはやはり雄を象徴するその部分だった。 (デ、デケぇ…男って勃起するとこんなになっちまうのか!? それともコイツが規格外なだけかぁ?) どちらにしても、コレをその身に受け入れるのかと思うと不安と恐怖に駆られる。 (つーかこれ、ホントに入んのかぁ!?) そういう事に手慣れている女ならまだしも、自慰すらしたことのない自分にコレを受け入れられるのだろうかと、不安になりながらザンザスのソレをマジマジと見つめた。 天を仰ぐようにそそり立つ赤黒い雄には無数に血管が浮き出ていて、ピクピクと脈打っている。 全長は愛用の剣の柄と同じくらいあり、太さはそれよりも一回り大きかった。 見れば見るほど入る気がしない。 「どうした? コレがそんなに気になるのか?」 「うおっ!?」 グロテスクで凶悪な、化け物みたいな雄に慄いていると、ザンザスがニヤつきながら腰をズイッと突き出してきた。 咄嗟に避けようとしたが、エラの張った先端が一瞬頬を掠りビクンと体が跳ねる。 「あ…あ゛ぁ…」 そのままピトピトと頬に雄を押し付けられ、剣を突きつけられているような気分になった。 「避けてんじゃねーよ。これでブチ抜かれてぇんだろ?」 その言葉にハッとなる。 (そうだ…入るか入らないか、じゃねぇ。無理矢理でもいい。オレはコレで貫かれてぇんだ…) どんな形でもいい。ザンザスに抱かれ、その雄で散らされたい。 その気持ちを思い出すと不安や恐怖は嘘のように消えていった。 スクアーロはゆっくり顔を上げると従順な目でザンザスを見上げ、無言でコクンと頷く。 それを見てザンザスは満足げに口の端だけで笑うと、スクアーロの眼前に雄を突きつけ、また命じた。 「触れ。それくらい出来んだろ。今度はてめーがオレを楽しませてみろ」 ザンザスの低音ボイスにまた全身が震える。 その声に操られるように手を伸ばすと、震える指をそっとザンザスの雄に絡ませた。 (!? か、硬ぇ…) 生まれて初めて触れる雄の石のようなその硬さに驚愕し、手がそのままピタリと硬直してしまう。 (人間の体ってここまで硬くなるモンなのかぁ? それに、すごく熱ぃ…ココだけ別の生き物みてぇだ…) ザンザスの持つ怒りが具現化したようなその雄は間近で見ると更に迫力があり、スクアーロはそれに手を掛けたまま、ただ呆然としていた。 「おい、カス。まさかとは思うが、それで触ったつもりじゃねーだろうな…それともそこまで馬鹿なのか?」 雄をやんわりと握ったままピクリとも動かなくなったスクアーロを見て、ザンザスが呆れたように溜息を吐く。 「ば、ば、馬鹿にすんなぁっ!! それくらいちゃあんと分かってるぞぉ。これを、その…扱けばいいんだろぉ?」 呆れた声に我に返ったスクアーロは慌てたように捲し立てると、昔一度気まぐれで見た、寮から外への抜け道に落ちていたポルノ雑誌の内容を思い出しながらぎこちなく手を動かし始めた。 (上下に擦ればいいんだよなぁ…) 始めはただ闇雲に、サオの中央部分だけをコスコスと擦っていたのだがザンザスの反応は薄く、それならばと今度は根元から先端にかけて撫でるように擦っていく。 こうしてザンザスの雄にゆっくりと触れていると、始めの時よりも形や熱さ、感触がよりハッキリ掌から伝わってきて、何だか妖しい気分になってきた。 (まただ…下の方がムズムズしてきやがった…オレが触られてるワケじゃねぇのに、何で…) まるで掌全体と秘部がリンクしてしまったかのような感覚。 雄に触れている掌と、じわじわと疼く秘部の双方から、炎が燃え広がるように全身が熱くなっていく。 (クソッ、オレがムラムラしてどうすんだぁ! ザンザスに感じてもらいてぇのに…) チラとザンザスの様子を見上げると、僅かに眉を寄せ小さく息を吐いていたが、今の自分のように体が火照るほどに感じているようには見えなかった。 (こんなことなら、ちょっとでもセックスの勉強しとけばよかったぜぇ…) 約束したあの日から一夜明けてもザンザスの言葉が現実味を帯びなくて、今日寮に迎えの車が来るまでずっと魂が抜けた状態で過ごしてしまったことが今更ながらに悔やまれる。 「本当にてめーは剣の扱いしか知らねーんだな」 「すまねぇ…」 自覚はしていたが、改めて言われるとやはりショックでガクリと肩が落ちた。 「仕方ねぇ、手コキはいいから舐めろ。その方がまだマシかもしれねー」 「な、舐め…えっ…」 「出来ねーのか?」 「いや、出来る…お前になら、何だって出来るぞぉ。初めてだから上手くやれるかは分からねぇけど…」 ワンテンポ遅れて脳がザンザスの要求を理解し、サオ部分を掴んでいた手を根元に添え直す。 「こっちも下手だったら、ごめんなぁ」 ザンザスを見上げながらそう言った瞬間、手の中の雄がビクンと大きく跳ねた。 「な、何だぁ!?」 「………チッ」 突然のことに驚いていると、何故かザンザスは軽く舌打ちしてプイと顔を逸らしてしまう。 (オレが弱音吐いたから、怒らせちまったかぁ?) その横顔が赤くなっている理由を勘違いしたスクアーロはしょんぼりと眉を下げた。 本当の理由は怒りによるものではなく、自分が原因なのだとは全く気付いていない。 一方ザンザスは、スクアーロが時折見せる女らしい仕草や表情に反応してしまう自分に苛立ちを募らせていた。 (ドカスが…いつもみてーにつっかかってくりゃいいものを、柄にもなくしおらしくしやがって。こっちまで調子狂うじゃねーか) 自分の中に芽生え始めている感情に目を背け、無意識に責任転嫁することで心の均衡を保とうとする。 (大体、こういうことに疎すぎる。いくら初めてとは言え、もう少しくらい知識があってもよさそうなもんだが) 自分たちくらいの年なら知識だけはやたら豊富なものだが、スクアーロの場合中学生の猥談レベルすら疑わしい。 (まぁ、今まで剣一筋で生きてきたみてーだから、必要最低限の性知識しかねーんだろうな) ふと、こんなにもまっさらなスクアーロを自分のこの手で染め上げたらどうなるのだろうかと、雄の本能である支配欲と征服欲が首を擡げてきた。 だがすぐにその考えを打ち消すように心の中で頭を振る。 (いやいやいや、それはねぇ! 何考えてんだオレは!! コイツは戦力としては使えるが、女としちゃ全然使えねーだろ!! 胸は洗濯板みてーだし、下はツルツルでガキ臭ぇし、キスも手コキも下手糞でマグロだし、それに…) テュールとの決闘で、おっ死ぬかもしれねーし―― ここで不意に思考が途切れ、妙な喪失感に襲われた。 もしスクアーロがテュールとの決闘で命を落としても、将来的に使える駒が一つなくなるだけの話だ。 テュールに勝利してヴァリアーに入隊したとしても、自分にとってはただの一隊員にしか過ぎない。 居ても居なくてもどうでもいい存在のはずなのにこんな気持ちになるのは、肌を合わせようとすることで情が沸いたからだろうか。 (オレともあろうものがカスに振り回されるとはな…) らしくないのは自分もかと、自嘲めいた溜息を漏らす。 スクアーロはただ一度抱かれてみたいと、そう言った。 自分はそれに応えて施しをしてやるだけだ。 それ以上でもそれ以下でもない、一夜限りの関係。 スクアーロが極稀に女らしく可愛く思えるのも、このシチュエーションがそうさせているだけだ。 明日になればまたいつも通りに戻るだろう。 自分も、スクアーロも、二人の関係も。 そして、やはりあれは一時の気の迷いだったと思うに違いない。 先のことまで考えるなんてどうかしていた。 明日になれば全ては元に戻るのだから、今は余計なことに囚われずスクアーロを抱くことだけを考えよう。 ザンザスは自身への苛立ちにケリをつけると、眉を下げたまま自分を伺うように見つめてくるスクアーロに向けて口を開いた。 「下手かどうかはやってみなきゃ分からねーだろ。ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと舐めろ」 「そ、そうだな…やってみなきゃ分かんねぇよなぁ」 その言葉を聞き、不安に満ちていたスクアーロの顔に僅かだが喜びの色が浮かぶ。 (これくらいで嬉しそうにしてんじゃねーよ、カスが) 自分とスクアーロ、どちらに対してか分からない苛立ちが胸の中に一瞬沸き上がったが、それを悟られぬようにそっと目を伏せた。 「今度は気持ちよくなってもらえるように頑張るからなぁ」 能天気な言葉の後、少しの間を置いて自身の雄に何か柔らかいものが押し当てられ、すぐにそれが唇だと気付く。 目を開けたままだったらまた反応してしまっていたかもしれないと、心の中でどこか安堵しながらスクアーロの愛撫の続きを待った。 (やっぱ熱ぃ…) いきなり舌で触れるのは何となく躊躇われ、まずはと口付けてみたのだが、掌よりもダイレクトに熱が伝わってきて動けなくなる。 その熱が雄に触れた唇からゆっくり全身へと運ばれていく。 (今オレ、ザンザスのにキスしてる…信じられねぇ…夢か、コレ…) 心の中で自問するが、体の芯からトロトロと蕩けていくような感覚がこれは現実だと教えていた。 熱に浮かされているような、ふわふわした気分につい浸ってしまったが、今度こそザンザスに感じてほしいという目的を思い出し、唇をそのまま先端に向けてスーッと滑らせていく。 根元から先端の真下辺りまで何度か唇を往復させると、ザンザスの雄に口唇で触れているということがようやく現実味を帯びてきた。 そっと唇を離し、今度は恐る恐るだが舌で触れてみる。 舌が熱くなっているせいか唇の時ほど熱を感じなかったが、ザンザスの雄を舐めているという事実が一層全身を火照らせた。 (あんまり味、しねぇんだな…) 何だか腕の傷を舐めている時に似ていると思いながら、そのままペロペロとサオ部分に舌を這わせていく。 スクアーロの舌は奉仕というよりもただ舐めているだけの動きで、中途半端に与えられる快感にザンザスの下半身は焦れていた。 「おいカス、飴じゃねーんだから舐めるだけじゃなくてしゃぶれ」 「これじゃまだダメかぁ…すまねぇ」 自分では懸命に奉仕しているつもりだったが、ザンザスの焦れた声にまだまだ不十分だったかと軽く落ち込みながら舌を離し、先端に目を向ける。 (あ…先っぽが濡れてる。これが先走りってヤツかぁ?) 鈴口から透明な雫が滲み出ているのに気付き、手で触れた時よりは感じてくれたのだろうかと気を取り直し、その雫を拭うように舌先で舐め取った。 (しょっぱい…) 今まで味わったことのない不思議な味が舌の上に広がり、目を丸くする。 (精液は苦いって聞いてたから、これも苦いのかと思ってたぜぇ) いくらザンザスの肉体の一部とはいえ、雄を口に咥えることに羞恥と躊躇いがあったし、苦いというイメージが先行していたが、これならと濡れ光る先端に顔を近付けた。 「クッ!」 「ヤ、ヤベッ!!」 そんなつもりはなかったが、雄を含んだ瞬間カリッと歯を立ててしまい、慌てて一度口を離す。 「いきなり歯ぁ立ててんじゃねーよ、カスが! てめーを女にするチ×ポだぞ。丁重に扱いやがれ」 「す、すまねぇ…」 自分でも驚いたのかスクアーロはかなりの動揺を見せていたが、落ち着きを取り戻すと歯を立ててしまった場所にチロチロと舌を這わせ、癒すように舐めた。 それからもう一度、今度は慎重にそぅっと雄を口に含む。 (歯を立てねぇようにすんの、結構難しいぜぇ…) ゆっくり、ゆっくりと雄を口の中に飲み込んでいくが、それでも意図せず歯を立ててしまい、焦って動揺してまた…という悪循環を繰り返していた。 ザンザスは諦めたように眉を顰め、無言で雄への衝撃に堪えている。 (ヤベぇ…歯ぁ立てないようにって意識すればするほどやっちまう…) 何とか雄全体の半分ほどを咥えたところで一息つくと、痛みでなく快感を与えねばとモゴモゴ唇と舌を動かし始めた。 だがそんな努力も空しく、遂におもいっきりガリッ! と歯を立ててしまい、スクアーロの体が恐怖で固まる。 (ヴお゛ぁぁあ! やっちまったぁああ!!) 頭上から感じる凄まじい殺気に恐る恐る顔を上げると、予想通りザンザスがビキビキと額に青筋を立てて睨んでいた。 「痛ぇよ…いい加減にしろ、このドカスが!!」 「ひぃい゛っ!」 ザンザスはガクガクと震える頭をガシッと掴んで無理矢理引き剥がすと、そのままちゃぶ台をひっくり返すかの如くスクアーロの体をベッドの中央に放り投げた。 「ヴぅ…な、何だぁ?」 グイと頭を押しやられたと思ったらいきなり視界が反転し、状況がイマイチ把握しきれないまま首を起こして足元を見やる。 それとほぼ同時にザンザスの手が股の内側にかけられ、左右にガバッと開かれた。 「わぁぁぁっ!! 何してやがるっ!!」 「るせぇ! てめーに任せてたらこっちの身が持たねーよ。大人しくマグロってろ」 心の準備もなく秘部を晒され、スクアーロは目を白黒させながらジタバタ暴れるが、ザンザスはそれを物ともせず開かれた脚の中央に顔を近付けてくる。 「みっ、見んなよぉ!!」 「だからうるせーよ。奥までじっくり見てやるっつっただろ」 「ヴっ…」 ギロリと睨みつけられビクッと身が竦み、鋭い眼光と低い声に体がゾクゾクと震えてきて、それ以上動けなくなった。 スクアーロが抵抗を諦めたように顔を横に伏せギュッと目を瞑るのを見届けると、ザンザスはピッタリと閉じているスリットに指をかけゆっくりと割り開いていく。 初めて外気に剥き出しにされたソコは鮮やかな桜色に色付き、奥から溢れ出てくる透明な蜜で濡れ光っていた。 (中までザンザスに見られてる…自分でも見たことねぇのに…) 露になった花弁に暖かな息がかかるのを感じ、股がわなわなと震える。 それでもザンザスの前に屈服した体には抗う力もなく、ひたすら羞恥に耐えるしかなかった。 「何だ、もう濡れてるじゃねーか。オレのチ×ポ弄ってて興奮したのかよ」 「な…オレが濡れるなんて、そんなっ…」 「オレの言うことが信じられねーってのか? ほら、ちゃーんと濡れてるぞ」 ザンザスは本人すらまだ手をつけたことがない膣口から溢れ出た蜜を指で軽く掬うと、にちゃにちゃと指の腹を擦り合わせて見せつける。 「や、止めろぉ!!」 体の火照りから何となくは自覚していたが、それでも自分が濡れるなんて信じられず、ザンザスの手元をつい見てしまい、後悔した。 すぐにまた顔を背け目を瞑るが、ザンザスの指と指の間で糸を引く粘着質な液が頭に焼き付いて離れない。 「濡れちゃいるがこれだけじゃ心許ねーな。もうちょっと濡らしとくか」 「え゛? え? え゛えぇぇぇ!?」 聞こえてきた言葉と再び秘部に感じた熱い息にザンザスがこれから何をしようとしているのか気付き、スクアーロはムードぶち壊しの素っ頓狂な声を上げてしまった。 「さっきからうるせーな! てめーのションベンくせーマ×コ舐めてやるっつってんだよ。ありがたく思え」 「ちゃんと風呂でよーく洗ってきたから臭くねぇよ!」 でも濡れているということは匂うのだろうかと思い直し、多分と小声で付け加えながらグイグイと両手でザンザスの頭を押し退ける。 「カスが、揶揄を真に受けてんじゃねぇ。まぁ雌くせーいやらしい匂いはプンプンしてるけどな」 「なっ………あ、ちょ、や、止めっ…」 あまりの言葉に思わず絶句してしまったが、その隙に閉じかけていたスリットを再び開かれ、慌てて両手に力を入れ秘部に口をつけられるのを何とか阻止した。 「匂うなら、そんなことしなくていい! 痛ぇことは慣れてる。濡れてなくてもおもいっきりブチ込んでくれて構わねぇから!!」 「馬鹿か、てめーは。濡れが悪いと男も痛ぇんだよ。それに痛みが引かなくて決闘に差し障りがあったらオレも後味悪ぃからな」 「でも…でもよぉ…」 「いいから黙って寝てろ。オレはてめーの匂い…嫌いじゃねーよ」 「! ひっ…」 どういう意味、と口を開きかけるが、秘部に唇が触れる感触にビクッと体が跳ね、言葉の代わりに小さな悲鳴が漏れる。 もう一度目の前の頭を押し退けようと試みるが、ふと先程のザンザスの言葉が脳内に甦り、もしかしたら彼なりに気遣ってくれているのではと思うと抵抗出来なくなってしまった。 スクアーロが迷っている間にザンザスは舌を出すと、それをつぷ、つぷと膣口に挿し入れ、蜜を掻き出すように舌先を動かし始める。 (し、信じられねぇ! ザンザスがオレの…舐めてるなんてっ…) 優しい愛撫なんて当然期待していなかったし、十分に濡れていなくても無理矢理ブチ込まれるくらいの覚悟でいたので、秘部を舐められるなんて想定外の出来事に頭が追いつかない。 舌が這い回るヌメヌメとした感触に全身の力が抜けていき、自分でも恥ずかしいくらいの声を上げるしか出来なかった。 無意識に逃れようと腰を引くも、それを追うようにザンザスの顔が股間に押し付けられ更なる快感を与えられる。 ザンザスはスクアーロがこれ以上逃げないよう両腕で脚を抱え込み、膣口からクリトリスまで一気に舐め上げた。 「あ゛ぁあっ!!」 舌が秘部の最上に位置する部分に掠ると今までにないくらいの快感が駆け抜け、体が大きく波打つ。 (な、何だコレ…今までと何か違う…) そのままザンザスの舌先は速度に緩急をつけて膣口とクリトリスの間を何度も往復し、クリトリスに刺激を受ける度にスクアーロは大きな反応を見せた。 「やっぱりてめーもココが一番いいんだな」 「ココ…って?」 ザンザスの声は耳に届くが、頭がぼんやりしてきて思考が働かない。 太い指がたっぷりと溢れ出た蜜をくちゅくちゅと掬う音をどこか遠くの出来事のように聞いていると、不意にその指がジンジンと疼く最上部に押し当てられた。 「っっ!!」 クリトリスに意識が集中した瞬間、そこを守る包皮をグイと引き上げられ、スクアーロは声にならない悲鳴を上げる。 剥き出しにされたクリトリスの疼きは激しさを増し、じっとしていてもそこから全身に痺れが走っていくようだった。 「その様子じゃ自分でしたこともなさそうだな。なら刺激が強すぎるかもしれねーが、あんま暴れんじゃねーぞ」 「え………ひっ!!」 クリトリスの疼きだけでどうにかなりそうなのを必死で堪えていると、追い打ちをかけるようにその部分を舌先でツンと突付かれ脚が跳ね上がる。 「コラ、暴れんなって言っただろ!」 「で、でもよぉ、ソコに何かされるとおかしくなっちまうっ…」 「じゃあおかしくなっちまえよ」 「や、やだ…ソコ、マジでヤベぇからっ…い゛っ…ひぁぁっ!」 何とか逃れようと腰を捩るが股を上から押さえるように固定され、無防備なクリトリスを何度も舌先で弾かれた。 最も敏感な部分を弾き上げられる度に脳天を突き抜けるような痺れが走り、だんだんと意識が白濁してくる。 ザンザスは怯えるようにヒクヒクと震える小粒のクリトリスに、まだまだと言わんばかりに吸い付いた。 「ひぃん! やだ、やだぁあ…も、ソコ…許してくれよぉ!!」 強すぎる快感に生理的な涙を零しながらスクアーロは必死に許しを請う。 だがザンザスがそこであっさり許すわけもなく、トドメ代わりにクリトリスを更に深く含むと、ちゅうぅぅっと強く吸い上げた。 一際強い、稲妻のような痺れがクリトリスから脳天目掛けて駆け抜ける。 「ひっ……あ゛ぁぁああぁっ!!」 痺れと共に意識まで脳天を突き抜けたような感覚に襲われ、スクアーロはそのままホワイトアウトした。 (ん…あ、あれ?) 真っ白に染まった意識が少しずつ戻ってくる。 (今オレ…どっか遠くに飛んでっちまったような…これが絶頂ってやつなのかぁ?) まだ体がふわふわ浮いているような気分だった。 心地よい気だるさに身を任せていると、ペシ、ペシと頬を軽く叩かれゆっくりと現実に引き戻されていく。 「おいカス、生きてるか?」 「ザン…ザス?」 目を開けると、一番に飛び込んできたのはザンザスの顔。 どこか心配そうに見えるのは、まだ夢見心地だからだろうか。 「ったく…これくらいで意識飛ばしてんじゃねーよ。こんなんで本当に最後までヤれんのかよ」 「す、すまねぇ…」 呆れたように溜息をつくザンザスはいつも通りで、やはりさっきの心配そうな表情は気のせいだったかと思いつつ、頭を軽く左右に振る。 「で? もう大丈夫なのか?」 「あぁ、大丈夫だ」 「そうか…じゃあもう入れるぞ。ゴムが必要なら今のうちに言え」 入れる、という言葉にまだぼんやりしていた意識が急速に戻ってきて、遂にザンザスの手で散らされる時が来たのかと胸が大きく鳴った。 「おい、どうすんだ?」 「あ、ゴムはその…出来ればお前を直接感じてぇ。今夜は大丈夫…これはちゃんと調べた。もし万が一のことがあっても、お前に迷惑かけたり責任取らすような真似は誓ってしねぇ」 「分かった。てめーのその言葉、信用するぞ? まぁ…困ることがあれば一応言え」 聞いてやる、とボソッと言い、ザンザスはスクアーロの脚を大きく広げその間に入り込む。 本当に万一の時でも迷惑をかけるつもりはないのだが、ザンザスの口からこんな言葉を聞けるとは思わなくて顔がポッと赤くなった。 しばらく幸せを噛み締めていたが、秘部に何か熱く硬い物が当たり、それがザンザスの雄だと気付いた瞬間赤かった顔が一気に青ざめる。 (やっぱりデケぇ…入んのかよ、コレ。無理矢理入れたら裂けちまいそうだ…) ザンザスはすぐには挿入せず、中途半端な愛撫で焦らされギンギンに張り詰めた雄をスリットに擦り付け、慣らすように腰を揺らした。 擦り付けられているだけでもザンザスの雄の威圧感を痛いほど感じ、忘れかけていた恐怖や不安がぶり返してきて体が強張る。 「おいカス、力抜け。ガチガチじゃねーか。これじゃ入んねぇよ」 「お、おう…」 震える声で返事をし、何とか力を抜こうとするが体が言うことを聞かなかった。 膣口に先端を当てがわれ、遂にこの時が来たという期待と、壊れてしまうかもしれないという不安に体が震える。 「しょうがねーな…おい、カス鮫。てめーさっき痛ぇことは慣れてるから、おもいっきりブチ込んで構わねぇっつったよな?」 「い、言ったけどよぉ…」 「怖気付いたか?」 「そ、そんなことねぇ! いいから、さっさとブチ込めぇ!!」 「あぁ、ブチ込んでやるよ。てめーの望み通りにな!」 わざと挑発し、スクアーロの気が逸れた一瞬を狙って両脚を脇に抱え込み、根元まで一気に突き刺した。 「い゛っでええぇぇ!!」 「う、うるせぇ…」 スクアーロの色気もへったくれもない破瓜の悲鳴に耳の奥がキーンと痛み、ザンザスは顔を顰める。 初めて雄を受け入れた秘部も悲鳴を上げているかのように、ザンザスをギチギチに締め付けていた。 「きっつ…」 「ヴぅ…いでぇ…は、入った、のかぁ?」 身を引き裂くような痛みにようやく落ち着いたのか、目の端に涙を溜めながらスクアーロが尋ねてくる。 「あぁ、根元までキッチリな」 「そうかぁ…」 ふと、昼休みに屋上の給水塔に登ってぼんやり空を眺めていた時にたまたま耳にした、ランチ中の女子達の話が思い出された。 (女の体は好きな男を受け入れられるように出来てるって、ホントだったんだなぁ…) 最初はそんなものくだらないと思っていたが、今はこうしてザンザスを受け入れることが出来て、心の底から嬉しいと感じている。 「ザンザス…」 「あぁ?」 「ありがとうなぁ」 こんな時に場違いかとは思ったが、どうしても感謝の気持ちを伝えたくてその思いを唇に乗せた。 ザンザスは何故かハッとしたまましばらく固まっていたが、いきなりスクアーロの腰を掴むと自らの腰へと引き寄せ、強く打ち付けてきた。 「い゛っ…ちょ、ザン…そんないきなり、激しっ…」 「るせぇ! てめーは黙ってオレを感じてりゃいいんだよ!!」 治まっていた痛みが再び疼き出し、スクアーロは顔を歪める。 ザンザスの動きは乱暴だったが、どこか感情の昂りをぶつけているようにも感じられた。 何故、と理由を考えるが、激しく揺さぶられているうちに何も考えられなくなってくる。 ズンズンと雄を突き立てられ無意識にずり上がる腰をグンと引き戻し、また奥を抉るように雄を突き刺す。 それを繰り返しているうちに、いつしか部屋の中にはスクアーロの苦しげな嬌声と、パン、パンと肉と肉のぶつかり合う音だけが響いていた。 (腹ん中、熱ぃ…) 痛みには何とか慣れてきたが雄を打ち込まれたところから体が真っ二つになりそうだと、スクアーロは縋るようにシーツを握り締める。 (痛いとか、気持ちいいとかより…苦しいぜぇ…) 男を知ったばかりの体は熱い衝撃を受け止めるのが精一杯だった。 快楽とは程遠かったが、自分の中にザンザスの直接的な熱を感じていると、不思議と苦しさも心地よいものに思えてくる。 こうして望みを叶えてもらったし、前戯では満足させられなかったから、せめて最後はザンザスに気持ちよくなってほしい。 そのためにどうすればいいのかは分からなかったが、せめて少しでも体への負担を減らして最後まで耐えられるようにと、ザンザスの動きに合わせながら熱い息を吐き出した。 (優しくしねーとは言ったが、さすがにやりすぎたか) 不意打ちで今までで一番の笑顔をされ、込み上げてきた感情をぶつけるように激しく突き立ててしまったが、スクアーロが苦しげに胸を上下させているのを見て我に返り、腰の動きを緩める。 (つーかそろそろやべー…カスを中イキさせるのは無理そうだな) 中途半端な愛撫で体の奥の欲望が燻っているところに雄をキュウキュウと締め付けられ限界寸前だったが、スクアーロより先に達してしまうのはプライドが許さなかった。 (しょうがねぇ。また暴れそうだがクリでイかすか。処女とはいえ苦痛だけで終わらすのもなんだしな) 自分にしてはずいぶん甘いと心の中で苦笑しつつ左手でスクアーロの細い腰をしっかり掴み直すと、結合部から僅かに滲み出た蜜を指で掬いクリトリスに塗りつけた。 「ひゃう! あ゛っ、や…またソコっ…」 疼きが治まりきっていなかったのか、指がほんの少し掠っただけでスクアーロの腰がビクンと跳ね上がる。 「ココがどうした?」 「ソコ、触られると…はぁ、あっ…頭ん中真っ白に…なって…ん゛んっ…また、飛んでっちまうっ」 面白いくらい予想通りの反応に気をよくしたのか、ザンザスはニヤニヤと意地の悪い笑顔を作ると、ゆるゆる腰を動かしながら強弱をつけてクリトリスを擦り上げた。 「そうか、そんなにココがイイのか」 「や、違っ…あぁああ゛!」 「何が違うんだよ。ちょっと弄っただけでビチビチ跳ねやがって。マグロはマグロでも獲れたてか」 「な゛っ、てめっ…マグロってろって言ってたクセに何言いやがる! この馬鹿御曹司!」 ぶはっと吹き出すように笑われカチンと来てしまい、状況も忘れて思わず言い返してしまったが、ザンザスの動きがピタッと止まったのを感じて馬鹿はさすがにマズかったかと内心冷や汗がたらりと流れる。 「あぁ? 誰が馬鹿だって?」 「す、すまね…ひっ! や、あぁぁっ」 慌てて謝罪するも、いきなりクリトリスに陰毛を擦り付けられ、指の時とはまた違った快感に言葉は途中で嬌声に変わった。 「二度とそんな口聞けねーようによがり狂わせてやる!」 「や、止め…許し…あぅっ、あ゛ぁぁっ!」 やや濃い目の陰毛でジョリジョリとクリトリスを擦られ、同時に最奥を雄の先端でゴリゴリと抉られてスクアーロは悲鳴のような声を上げる。 全くの無毛である恥丘はザンザスの陰毛による刺激をダイレクトに受けてしまい、くすぐったいような気持ちいいようなむず痒い感覚に何度も体を捩った。 「ひぅっ、や、あ、はぁぁっ…ま、また、頭ん中…ぅあっ…グチャグチャに、なっ…ああぁっ!!」 「グチャグチャになっちまえよ」 「やぁ…嫌だぁっ…こんな…あ、あぁっ…オレばっか…んっ、く…オレはお前にっ…気持ちよ…ぁああっ…」 「………ドカスが」 嗚咽混じりで途切れ途切れに紡がれる言葉に溜息をつくと、ザンザスは動きを止めてスクアーロをじっと見つめた。 「ザンザス…?」 「ココで分かんねーのか? ほら、オレのチ×ポはどうなってる?」 言葉より体で理解させるように軽く腰を揺らすと、スクアーロの口から答えを言うように促す。 「あっ…すっげ、硬くて…ぁはっ…熱ぃ…」 「カス如きに心配される謂れはねーんだよ。ちゃーんと一滴残らず注いでやるから、てめーはオレを感じてよがってりゃいい」 「ザン…あ゛…あぁーっ」 余計なことに囚われて無意識の内に快感にブレーキをかけてしまっているのなら、それ以上の快楽を与えてやればいい。 ザンザスはフィニッシュにむけて腰の動きを早めながら、これまでの刺激で赤く膨れ上がったクリトリスを親指の腹でグリグリと揉み上げた。 「ああぁ、またくるぅ! 頭ヘンになっちまうよぉっ!!」 与えられる強すぎる快感に、スクアーロは目の端に涙を浮かべ頭を左右に打ち振る。 クリトリスと最奥の二点を同時に容赦なく責められ続け、下腹部の甘い痺れと共に先程の感覚が蘇ってきた。 (弄られてるトコがジンジンして気が変になりそうだぜぇ…腹ん中もザンザスの熱ぃので焼かれてるみてぇだ…) 掌で感じた時とは桁違いの熱さに、全身が灼熱の炎に包まれていくような錯覚に陥る。 「ひぅっっっ!」 ザンザスの指が硬く勃起したクリトリスをキュッと摘み上げた瞬間、そこから心臓を射抜くかのように一筋の快感の光が走った。 「ザンザス…!!」 全てが白濁の渦に飲み込まれてしまいそうで、無意識のうちに咄嗟に左手を伸ばす。 自分に向けて伸ばされたその手を、今掴んでおかないともう二度と触れることが出来ないような気がして、ザンザスはその手を取り指を絡めた。 「ザ…ン…あ゛…あぁぁっ…あぁああーっ…」 ザンザスの存在を掌の中にしっかりと感じ、スクアーロは安堵の笑みを浮かべると掠れた喘ぎ声を上げて意識を手放した。 「くっ、キツ…ん…うぅっ!」 まるでしがみつくように内壁が雄を締め付けてきて、限界に達したザンザスは低く呻くとスクアーロの最奥に向けて白く熱い欲望を解き放つ。 「くぅ…はぁっ、はぁっ…はぁぁぁ…」 雄の本能か、達した後もより深く腰を押し進め、溜まりに溜まった欲望を快感に戦慄く雌穴にたっぷりと注ぎ込み、最後の一滴まで出し切ってから深く息を一つ吐いた。 半萎えになった雄を引き抜くと、こぽ、と音を立てて僅かに血が混じった精液が溢れ出し、粘り気のある白く太い糸が二人を繋ぐ架け橋となる。 スクアーロはまだ意識を飛ばしたままなのか、目を伏せ唇を半開きにし、ハァハァと小さく息をついていた。 「カスザ……スクアーロ…」 ザンザスはスクアーロをじっと見下ろしながらその名を口にすると、うっすらと開いた唇に惹かれるように顔を近付け、唇と唇が触れ合う直前、ハッと我に返ったように身を離す。 (今オレ何しようとした!? もう事は済んだのにキスとか…あり得ねぇ!!) チラ、とスクアーロを見やると先程と変わらぬ様子で熱い息を吐いており、自分の身に起ころうとしていたことには全く気付いていないようだった。 ホッと胸を撫で下ろすと、キスなんてしようとした自分に急に嫌悪感が沸いてきて、後始末もせずに無言でゴロリと横になるとスクアーロに背を向け目を瞑る。 (望みは叶えてやったし、十分すぎるくらいよくしてやったんだ。これ以上施してやる必要はねぇ) このまま放置していいのかなどと迷う自分に『いいからさっさと寝てしまえ』と言い聞かせるが、背に聞こえる息遣いが耳についてすぐには眠れそうになかった。 横になったまま苛立ちを募らせていると、スクアーロの呼吸音が少しずつ穏やかなものに変わっていく。 これで少しは気分よく眠れるだろうと思った矢先、意識が浮上したのかスクアーロがこちらを向く気配がして、内心舌打ちしつつ固く閉ざしていた目をそっと開いた。 今まで抱いた女達のようにべったりくっついて来ず、僅かに距離を空けているのはたまたまか、それとも自分の立場を弁えて遠慮しているからだろうか。 「ザンザス…」 そんなことをぼんやり考えていると、小さく自分の名を呼ばれた。 気付かぬ振りをしていると、申し訳なさそうな声がぽつりと響く。 「ごめんなぁ、変なお願いしちまって…」 黙ったままでいると、スクアーロは振り向かない背中に向かってぽつぽつと話し続けた。 「もう二度と、こんな馬鹿なことは言わねぇから」 「………」 「お前に女にしてもらえてよかった。これで心残りはねぇ」 「……………」 「明日からはまた、今まで通…」 「ったく、処女は面倒くせぇって本当だな」 スクアーロらしくないか細く悲しげな声をこれ以上聞いていたくなくて、その先に続く言葉を遮るようにわざと大声で呟く。 「キスだけでへばるし、チ×ポの扱い方はなっちゃいねーし、舐めてやったら暴れるし…」 「………すまねぇ」 「おまけにいつもは大声でうるせーくらいなのに、ウジウジうぜぇし」 「……………ごめん、ごめんな」 酷い言葉を浴びせてもいつものように突っかかってこないスクアーロに、そしてあり得ない感情を抱いてしまった自分に、苛立ちが最高潮に達した。 「てめーみたいなドカスには教育が必要だな」 「……え?」 込み上げてきた感情と共に言葉が勝手に口をついて出る。 「オレが直々にお前にセックス仕込んでやるっつってんだよ。だから…」 一瞬口篭るが、一度走り出した想いは止まらなかった。 「だから、テュールとの決闘の後お前がまだ生きてたら…オレのところに来い」 「ザンザス…」 ふと、自分は何を言っているのだろうと思ったが、あんなに苛立っていた心は不思議と落ち着きを取り戻していく。 「ヴ…ぉい…」 背中から嗚咽のような声が耳に届くが、どんな顔をしてスクアーロを見ればいいのか分からず、聞こえない振りをした。 「ヴお゛ぉい!! 見てろよ、ザンザス。オレは剣帝に勝って必ずお前のところに戻ってくるからなぁ!!」 スクアーロ特有の、キーンと耳鳴りがするほどの大きな声。 その声はどこか涙を含んでいて、無理していつも通り振舞っているのが分かる。 振り向きたい衝動に駆られたが、捻くれた最後の意地がそれを邪魔した。 しばらく黙ったままでいると、スクアーロが背中にコツンと額をくっつけてくる。 その小さな温もりが心地よく感じられ、こんなのも悪くねぇと思いながらそっと目を伏せた。 「ぁん、ザンザスぅ」 スクアーロの腰がクリトリスを擦り付けるように円を描き、八年もの間に伸びた銀の絹糸のような髪が腹を掠る。 腹の上に置かれた、今は血の通わない義手の左手に自分の手を重ね、下から何度も突き上げてやると白く細い体がビクンと跳ねた。 「ザンザスの、奥まできてるっ! そんなにゴリゴリされたら、またイクぅ!!」 「何度でもイッちまえ、この淫乱カス鮫が」 グイ、と腰を引き寄せ最奥を抉るように激しく突き立て、スクアーロを絶頂へと導く。 「あ゛ぁあっ! 腹ん中、壊れ…ちまうよぉ…あ、も、イ…く…い゛ぐ! い゛ぐぅぅぅ!!」 スクアーロは喉を引き絞るような絶叫を上げると体を大きく仰け反らせた。 同時に内壁がぎゅうぅっと雄を締め付け、共にと誘うように艶かしい蠢動を始める。 「くぅっ…んっ、く…う、うぅっ!!」 やや遅れて、まるで自分のためだけにあつらえたかのような極上の柔肉の中に、何度放っても量も勢いも衰いを見せぬ白い欲望をたっぷりと注ぎ込んだ。 「はぁ…はぁ…」 グイ、グイと腰を押し付けながら全てを注ぎ終えると、呼吸を整えながらスクアーロを見上げる。 「ザン…ザ…の…熱いの…いっぱいぃ…」 スクアーロはまだ少し放心状態なのか、虚ろな目で宙を見つめながら口をパクパク半開きにさせていた。 (今でも信じられねぇ…キスやチ×ポの扱いは上手くなったが、相変わらず胸は洗濯板みてーだし、下もツルツルのまんまでガキ臭ぇし、ヴお゛ぉいヴお゛ぉいうるせぇコイツを、自分の女に仕込んじまうなんて) ふと、八年前初めて体を重ねた時のことが思い出され心の中で苦笑していると、視線に気付いたのかスクアーロがこちらを見つめ返してくる。 「ザンザス…愛してるぜぇ…」 「フン…ドカスが」 蕩けた目で愛の言葉を紡ぐスクアーロの髪を引っ張り顔を近付けさせると、手を伸ばしてその頭を抱え込む。 (まぁいい。惚れた奴が全てだからな) こんなこと、絶対口に出しては言ってやらねぇけど、と心の中で一人呟き、言葉の代わりに唇を重ねた。 |
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